高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです

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タイトルは私が偉そうに語っているわけではなく、本のタイトルそのままです。

Evidence Based Medicine(EBM)といわれ、特に医療分野では科学的証拠・根拠を基にした治療が絶対とされる傾向にあります。

この本も私自身もそれを否定しようというわけでありません。EBM前提ではあるものの、それがその患者にとってのベストとは限らないケースはいくらでもあるよねという「見方」を示しています。

エビデンスはもちろん大切です。しかし、ときにはエビデンスとにらめっこするばかりではなく、患者さんと楽しみながら医療をしたっていいんじゃないかと思うのです。

『Dr.西&Dr.宮森の高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです』

高齢者診療においてそのようなケース(というかニーズとも言えると思います)に遭遇することが多く、そんなケースやニーズを川崎市立井田病院の二人の医師の対話形式で紹介されています。

難しい内容はなく、軽快に話が進んでいくので読みやすい本です。そして、読者の対象は医療従事者に限りません。動物医療従事者はもちろん、高齢者、障がい者福祉等に携わる福祉従事者、そして高齢の家族がいる家庭が読む価値のある本だと思います。

仏壇スコア

福祉従事者と同行訪問する当院にとって直接関係する章だったので、本の内容をひとつ紹介します。

4点満点で仏壇があれば+1点、仏壇の扉がきちんと開かれていれば+1点、お供えがあれば+1点、個人の遺影があれば+1点。これを私は「仏壇スコア」と読んでいて、患者さん本人と家や先祖とのつながりを測る指標にしているんだ。

『Dr.西&Dr.宮森の高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです』

宮森先生は、仏壇スコアで家との結びつきを評価しています。仏壇を心の支えとして大切にしているか、時には家族のルーツや文化がわかることもある。仏壇スコアが高い人は家に居たいという思いが強かったり、仏壇があることでスピリチュアルペインが弱い傾向にあるといいます。

そのような人は、無理にでも入院させるより、在宅ケアが適している傾向にあるといえるのです。

在宅アセスメント

在宅ケアの患者さんを訪問した際、家の間取り、患者さんがいつもいる部屋の場所、部屋にある仏壇や写真、本棚、トイレ、キッチンなどを確認します。これを在宅アセスメントといいます。仏壇スコアも在宅アセスメントのひとつですね。

在宅アセスメントは、患者さんのケガや病の予防・早期発見につながります。それだけでなく、患者さんの心情やこれまでの人生ストーリー、背景、考え方も見えてくるようになり、それがよりよい医療へとつながっていきます。

アセスメントとしてみる項目は多いほうがいいと思います。決まった項目があってもいいですし、決められた項目以外から拾える情報も多いでしょう。そして、当然一度で全部は見られません。患者さんとの信頼関係構築があって始めて見ることができる部分も多いです。

訪問した人の目もそれぞれなので、多くの人の目でみることが大切です。各担当者のちょっとしたアセスメントの積み重ねは、担当者会議で共有することでより有意義なものになります。

当院で訪問にいくのは今のところ獣医師ですが、獣医師にしか気づくことができないであろう項目があると思います。動物の健康状態や管理状況の変化から気づく飼い主さんの不調、心情の変化があるかもしれません。

日頃からそのアンテナを張っていたいと思います。

いずれは動物看護師にもそれはできると思っています。人の健康福祉に貢献する動物看護師。いいですよね。地域包括の形をどんどん広げていきたいです。

緩和ケア

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動物病院の先生は「最後は家で看てあげて」という方も多いと思います。その視点はとても大切にしなければならないものだと思います。医療も動物医療も高度になるほど、できることはないか?と模索し、入院が長引きがちです。

私も先輩に対し「もっとできる治療がありそうなのにもう退院?」と思い、自分の患者には「治療に一生懸命」になっていた時期はありました。しかし、それによりただ入院が長引いただけという結果になったこともあったと思います。

ただ、「家で看てあげて」=「もう治療できることはない」で終わってしまっていることも少なくないのではないでしょうか。

治療しかしないのではなく、緩和ケアを取り入れられるともっといい動物医療になると思います。

特に早期からの緩和ケアは、QOLが改善されることが人医療では立証されてきています。つまり、治療のエビデンスと同様に緩和ケアのエビデンスも増えているということです。医療は治療に留まりません。

最後に

動物医療でいえば、患者は動物ですが飼い主がいます。飼い主の希望に沿った治療を提供するのは当然です。それが標準治療やガイドラインからはずれたものであっても、それに応えるという選択肢は常に持っておきたいものです。

ケースバイケースですし、正解はないのかもしれません。でも、それができるのが人間ですよね。

エビデンスを知ったうえで、エビデンス人間にならないように患者と向き合うという、一番大切なことをリマインドさせてくれる本でした。

高齢者にかかわる方、動物医療従事者もぜひ手にとってみてください。

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