とある現場がひと段落したので、概要を紹介してみたいと思います。
これを読んだ人、特に福祉従事者さんがこういうことができるんだという気づきになればいいなと思います。
状況
- 高齢男性(持病持ち)の飼い主
- 成猫7匹(屋内外出入り自由で飼育、全頭未去勢)
- 担当ケアマネさんから相談で探知
- 飼い主の男性は生涯猫を飼ってきていたが、自分の手に負えなくなりそうで相談
問題点及び飼い主の希望
これまで猫は出産しても子猫が育たないということを繰り返してきたようです。育児放棄された子猫の世話を飼い主自身が一生懸命してきたが、それでも育たないので可哀想ということでした。
今後、育ったとしてもこれ以上増えてしまっては世話ができないのも目に見えていました。
実際、飼い主さんは持病があり、体調が優れない日もありました。
また、ノミが大量に寄生しており、訪問するケアマネさんやヘルパーさんもいつ健康被害が出てもおかしくない状況でした。
飼い主は猫の繁殖制限を検討していました。
方針
当院に相談された時点ですでに繁殖制限を検討されていたので、送迎つきで手術をすることはスムーズに決まりました。
(今回は、飼い主さんの説得はほぼ必要ない段階で相談をいただきましたが、通常は繁殖制限や適正飼養の説得をする段階で、当院に相談してもらって構いません。)
ノミの予防薬は往診時や手術時に塗布、または飼い主さんが家でが塗布することにしました。
それなりに飼い主さんに慣れており、捕獲から手術はとんとん拍子で進めることができました。
問題発生
去勢手術を順次進めている間に、飼い主さんの体調が悪化。
入院はしなかったものの、飼い主さんはすっかり気を落とし、これから猫を飼っていく自信を失ってしまったようでした。
そして、保健所に全頭引き取ってもらうと主張するようになりました。
保健所との意見の不一致
当初、保健所への情報提供は当院からおこないました。
福祉現場での動物問題は最終的に複数の目による見守りが必須なので、把握しておいてもらいたかったのです。情報共有による見守り体制構築が目的でした。
しかし保健所は飼い主訪問でどんな指導をしたかは言えないの一点張りでしたし、実際当院に報告もしてもらえませんでした。(念のため言っておきますが、これが普通の対応ではないですからね)
ただ、ケアマネさんから保健所に猫を引き取ってもらう話が出ていることを聞きました。
保健所ができるのは主に適正飼養指導と、飼えなくなった際の引き取りのみです。
本人が希望すれば保健所は引き取らざるを得ない(その先には殺処分の可能性もある)ことも理解しています。
しかし、私の印象としては、飼い主さんが心身ともに落ち込んでいるときに、全頭引き取りの話をする必要があったのか?疑問でした。
当院は、猫をずっと飼ってきた人から猫を全頭引き上げてしまうことに反対です。理由はこちらの記事に書いてます。
押せば全頭引き取り依頼をしそうな落ち込んだ飼い主に、それを提案するのはいかがなものかと思いました。
そんなときに正常な判断はできないし、勢いで全頭引き上げてしまったらその後飼い主さんは大きな喪失感から、生きる気力をなくす可能性もあるからです。
ケアマネさんは、本人の希望が最優先という判断ですし、それをおごそかにしないのは当然です。
それは承知のうえで、なにも全頭じゃなくていいんじゃないかという説得を続けました。
ただ、説得すればするほど、ケアマネさんを保健所と当院の板挟みにして困惑させてしまいます。
本人の希望に沿わないのは、やまがただけという構図にもなってしまいそうでしたし、大声で説得を続けるのは困難でした。
譲渡
さすがに保健所もすんなり引き取ることはできないので、里親探しを手伝ってくれたようです。
無事に1頭、里親が見つかりました。
残り6頭は引き取り日が来てしまいました。
結果
しかし、どんでん返しがありました。
飼い主さんは一番の古株ボス1頭を残したのです。
これには安心しました。
「やっぱり全部いなくなったら寂しいし、話し相手として残した。」とのことでした。
その飼い主さんの声はとても明るく聞こえました。
飼っていく自信をなくした時から引き取りの話をしている期間、ずっと暗かった飼い主さんでしたが、「1匹残した!」という明るい声を聞いて、私が説得してきたのは間違いじゃなかったと確信しました。
途中、全頭引き上げるのは辞めるべきというわたしの意見は、ひとりよがりかもしれないと自問自答していました。
しかし、最終的には本人の判断で1匹残してくれました。
本人も嬉しそうに、「ブラッシングすると怒るし、ブラシを持つだけで逃げるんだよ」なんて話してくれて、間違いじゃなかったと確信しました。
今後
今後はその1匹を大切に飼ってあげて、他の猫を寄せ付けないように管理してもらいたいと思います。
その見守りを続ける必要があります。
そして、本当に飼いきれなくなった場合はどうするかを話しあっていきます。
一旦着地したので、事例紹介をさせていただきました。
福祉従事者の参考になればうれしいです。
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