多頭飼育の動物をゼロに。その先の懸念

多頭飼育の対応として、飼育数を減らすことは定石であり、反対する人はほぼいないと思います。

まずは増やさないこと。次に減らしていくこと。

しかし、目標の飼育数はどこにあるのでしょうか。

飼い主一人につき10頭でしょうか?

普通に考えたら5頭でも大変ですよね。

いやいや、多頭飼育になるような人に飼う資格ないからゼロにすべき!

適正管理できる数は、その飼い主や飼育環境によって大きく異なります。その判断はとても難しいものです。

しかし、ゼロにするのはどうでしょう?

今回は、ゼロにするか数頭でも残すかについて考えてみたいと思います。

というか、私はゼロにすることは好手にはならないことが多いと考えていますので、その理由を整理したいと思います。

今回は、独居の高齢者の猫が想像しやすいと思うので、これを主軸に説明したいと思います。

音声解説はこちら

ゼロにする意味

そもそも、ゼロにしたときのメリットから整理してみます。

動物の救済

多頭飼育は虐待、または虐待予備軍になっていることも少なくないです。

それらの動物を引き上げることは虐待からの救済を意味し、大変難しくも重要な対応です。

身体的虐待がある場合、とにかくその犯人に腹が立ち、いち早く救済したいと思うは当然です。

しかし、多頭飼育で多い虐待はネグレクトです。当院が特に力を入れている飼い主自身に福祉的支援が必要な高齢者独居や障がい者、生活困窮者などで多い、無意識に猫にエサをやり、いつの間にか繁殖して手に負えなくなったパターンです。

意図せずネグレクトになってしまっているため、飼い主自身も困惑している場合も多いです。

全頭引き上げてゼロにすることは、動物の救済と同時に、飼い主自身も多頭飼育からの解放・救済することになります。

管理不適飼い主への制裁

特に身体的虐待が伴う場合はこの意味が大きいと思います。法律違反で警察にも動いてもらう。そして動物を手放させる。

そこで反省し、変わってくれればいいですけどね…

ゼロの欠点

動物がいなくなったことによる飼い主の喪失感

ずっと動物の世話をしてきた飼い主の元から、動物がいなくなることは大きな喪失感を与えることになります。

人によっては何十年も犬を飼っていた、猫を飼っていたとおっしゃることもあります。動物の世話が生活の一部になっている。

例え外野からは世話をしていないように見えても、本人は愛情を持って可愛がっています。

独居の高齢者なら唯一の話し相手かもしれません。唯一の理解者かもしれません。

その動物たちがゼロになった喪失感は計り知れないものです。

喪失感から来る健康福祉低下

唯一の生きがいをなくした飼い主は、大げさではなく、生きる気力をなくすことも多いです。

散歩やエサやりの時刻になってもやることがないため、生活リズムが崩れる。

食事は喉を通らない。

話しかける相手がいないので、口を開くことも極端に減る。

世話や動物を撫でることもないので、身体を動かすことも減る。

こうなってしまっては、特に高齢者の場合急激にその方の健康福祉は低下します。

新たな動物の導入

その喪失感を補うためか、たまたま会った猫が放っておけなくてなのか、新しい動物を可愛がりはじめることも多いです。

これにより本人の健康福祉が保たれるのはいいことかもしれませんが、同じことの繰り返しになってしまいます。

新たな動物の存在の隠蔽

こうしてまた世話をすることになった動物の存在は公にできません。

全頭引き上げ時に「もう動物を飼わない」と親族、ご近所さん、福祉関係者、獣医師、保健所に約束したからです。

家でのエサやりを必死で隠すようになります。

もしくは、近所の公園まで出かけてエサを与えているかもしれません。

それは猫だけでなく、カラスなどの野生動物にも及んでいるかもしれません。

こうなってしまっては、自分の生活衛生だけの問題では収まりません。

隠蔽による介入困難

当然、本人は隠すのでエサやりについて聞いても教えてくれません。

教えてくれなければ、対応がより困難になります。結果、ひどい状況になるまで手を出せなくなってしまいます。

以上のような負の連鎖になってしまうことがあるため、多頭飼育現場の動物をゼロにすることは好手ではないことが多いのです。

ホーダーの場合

ここまで高齢者独居の意図しない多頭飼育を想定して説明してきました。

ではこれがいきすぎた保護活動などのホーダーの場合はどうでしょう。

当院の答えは、同じです。ゼロにすることは悪手だと考えます。

理由も同じです。

これはイギリス王立動物虐待防止協会(RSPCA)も同じ考えです。あの虐待に厳しいRSPCAですら全頭引き上げるべきではないとセミナーで明言していたのを、はっきりと覚えています。

結局、動物を取り上げても、罰金刑に処されても、投獄されても、再び動物を集めてしまい被害動物を増やすだけだからです。

歴史ある団体の積み上げてきた経験からくる知見は参考にすべきでしょう。

ゼロにする準備

しかし、ゼロにする準備は必要です。

明日飼い主が長期入院や死亡するかもしれません。そのような有事の際は動物を引き上げることができるような手続きはしておくべきです。

親族やご近所に依頼しておく、保護団体に依頼しておく、保健所への引き取り依頼書を書いておく、委任状も書いておくなどがあるでしょうか。

親族などに引き取ってもらうことは理想ですが、リスクがあります。いざそのときになったら無理でしたという話は尽きません。

書類の準備や委任状は遺言書のようになってしまいますが、意外と大切なことです。

このように今すぐゼロにしなくても、有事の際にすぐにゼロにできる準備はすべきです。

しかしながら、すぐにゼロにできるような頭数というのは、やはり数頭でしょう。

なにかあったら10頭よろしく、これは厳しい。

結局のところ、いかに数を減らしていけるかが大事という話に戻ってしまいましたね。

だからこそ、早め早めの相談をお願いします。

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