生命尊重教育~RSPCAの方法~

今回、日本動物福祉協会主催のRSPCAセミナー「生命尊重教育~こどもと命の授業~」に行ってきたのでそのレポートです。動物福祉協会は毎年RSPCAから講師を日本に呼んでセミナーを行っていますが、教育に焦点をあてたセミナーは今回が初めてでした。

動物福祉教室の前提

教育は受け続けるべきものです。教育によって物事に対する認識が新たに芽生えたり、自分の意見の方向性が出てきます。情報が入れば意見を変えていく傾向にありますし、それが教育&成長というものです。

歴史的に振り返ると、その社会の意見が変わっていく、科学、哲学が変わり、法律に反映されるようになります。特に動物との関わり方はどんどん変わってきています。

知性などは関係ありません。このうえで動物福祉のジャンルが発展してきました。

子どもへの教育の考え方

ここでいくつか質問を。読者のみなさんも一緒に考えてみてください。

Q1.子供はどうやってその動物に対して感情をもっていくのでしょうか。どんなインプットがあって、その起源はどんなものがあるのでしょうか。

A1. 身近な人の影響、動物に関する話を聞く、映像を見る

親等身近な人から話を聞く、その人達の態度を見聞きするなどが多かったです。最近ではSNSやYouTubeを始めとするスマホからの情報も多いでしょう。

絵本等の物語を例にとってみます。

鬼を退治しに行く桃太郎は人間の価値観を描写しています。赤ずきんちゃんのオオカミに罰を与えるのも人間社会の例です。犬のお巡りさんや森のくまさんの歌も人間社会を模写しています。

それぞれの文化に昔話やおとぎ話はあります。擬人的なものであることも多いですが、将来現実とは違うと学ぶ機会があるから何も心配はいりません。その機会を教育の中で与えることが我々の役目でもあります。

擬人化して考えないことを教えるのが大事です。生命尊重とは、お互いの違いを理解することです。

動物福祉教室の目的

最初に教育目的をはっきりさせたうえで、計画を立てます。

ペットショップや動物園に行って何を学ぶのか明確にします。ただ行って見るだけではいい教育になりません。

例えば、ペットショップに行き、動物福祉について学ぶ。ペットショップの在り方はどうか考える。

ペットショップに行き、犬の管理について学ぶでもいいですね。

自然観察に行き、生物の美しさと多様性を学ぶ。

動物園に行き、種の違いを学ぶ。

などなど。このように目的を明確にし、目的に合ったKUSAV(後述)をリストアップします。

行動規範を作る

特に野外教室では、行動規範を作ることが大切です。

  • 生命の尊重
  • ニーズの理解
  • 静かにすること
  • 触らないこと
  • 動かさないこと
  • 安全第一
  • 飲食禁止
  • 最後に手洗い

などが代表的なものです。ただ「~しない」と禁止事項の規範はでいるだけ避けたいところです。言い換えましょう。

触らない → 体が柔らかいよ。その動物にとっては人の手は熱いよ。

石や木を動かしっぱなしにしない → 動物のお家だよ。

という具合です。

教育過程の5段階(KUSAV)

どんな形の教育であっても、その過程はこの5段階になります。頭文字を取ってKUSAV(クサブ)。学ぶ順序もこの通りです。

Knowledge

まずは知識をつける。その動物種のニーズを知ることはその代表例です。

ニーズ等については、前回の記事で触れています。

Understanding

持っている知識をその状況に合わせて理解すること。時期や変化を理解すること。

Skill

世話など動物を扱うスキル、そして社会的なスキル、内面のスキルをつけること。社会的なスキルとは伝え方、内面のスキルとは他人の意見を聞き入れ、共感できるスキルです。場合によっては自分の考え方を変えていくこと、そして自分の意見を持つこと。

Attitude

思いやりの態度や優しく接すること。これは社会的なスキルからすんなり繋がります。

例えば、順番を待って人の話を聞く→自分の意見をいうという規律を守り態度を取るということ。その中で情報を共有し、共感度をあげるスキルがあれば、意見をまとめる→自分の意見が変わることもあるという流れも生まれます。

Value

生命尊重の価値を育むこと。生き物、環境への公平性と責任。これも社会的スキルと態度があればすんなり実現可能になります。

KUSAVはつまり、知識や技術を持ち、最終的に態度や価値観を持つことが目的であることを示しています

教室内での教育

動物のマネ

小さな子どもたちにおいては、動物のマネをさせることもRSPCAではよくやるそうです。

『猫のマネをしてみよう』

子どもは猫の動きをし、鳴いたりする。これにより、動物に共感することができます。

高校生では、被るマスクお面をかぶらせるくらいがいいと思います。ノってくるとその動物になりきって理解度が高まります。

別の子どもや先生にはナレーションをしてもらいます。

「にゃー」と言ってるけどどうしたんでしょう?なぜ、鳴いているのかな?

といった具合にナレーションすることにより、自然とその動物の立場になって考え、理解しようとします。

グループワーク

もう少し大きい子どもたちの教育では、『私達は動物に囲まれている』『動物の分かち合う世界』などといったタイトルでグループワークをやるのもいい教育です。

実際に今回のセミナーでもやってみましたので、読者のみなさんも一緒に考えてみてください。

Q2. 今日、起きてから今まで直接的または間接的に動物に関わったことは?

A2. 例)直接的:ペットの世話をした。駅で鳩を見た。植物の水やりした結果、土壌生物に水を与えた。土の上を歩くことで、そこにいた生物を踏んでしまったかもしれない。

間接的:犬の散歩を見た。たまごサンドを食べた。化粧品を使った。革製のパスケースを使った。SNSで動物の動画を見た。

普段意識している以上に動物との関わりが身の回りにあります。このようなことから、動物と無関係な人はいない、動物福祉に関係ない人はいないということを気付かされました。

ネガティブをポジティブに

ネガティブな話があればそれをピックアップしてすぐにポジティブな話題にするアンテナを張っておくべきです。

例えば、叩くのは虐待だ!という話題になったとき、そのまま他の子供に意見を聞くと、蹴るのも虐待!あれも虐待!これも虐待!!と、もっとヒートアップしてしまうことが多いです。

叩くのは虐待!

→ 他のやり方はあるのかな?人も動物だから、人間はなにが必要かな?

→ 衣食住、友達、お世話してほしい

→ 犬は衣食住どうだろう?(ニーズの確認)

とつなげるのがベターです。結果的にKUSAVの話題に展開できます。

どんなことが虐待か?と問いかけるのではなく、より良い福祉とはなにか?→より良い福祉を与えないことが虐待であると教えます。

そして最後はハッピーエンドで終えることが大切です。RSPCAでは、あまりひどい事例や写真を使いません。

ネグレクトでひどく痩せている犬の事例を取り扱ったとしても、「保護して健康的なケアをしてあげることで適正体重に戻り、今は幸せな家庭で暮らしています。」といったハッピーエンドを用意できなければ、子供の教育現場で取り扱うことは避けるべきでしょう。

ここでまたひとつ、読者のみなさんに質問です。

Q3.動物園からの帰宅後、動物が可哀想に見えたという意見を持つ児童がいました。どのようにフォローしますか?

A3.実は私なりの答えが出ていません。読者のみなさまのいい回答、お待ちしてます。

ヒントとして、常同行動が見られる動物をかわいそうと思うかもしれません。しかし「かわいそう」という言葉で済ませることなく、なぜそういう行動をしているか、どうすべきか、改善点はあるか、擬人化せず考えることがいいきっかけになるかもしれません。

人形使用のポイント

これまで日本では実際の動物を連れていく、いわゆる動物ふれあい型の教室がほとんどでした。学校飼育動物も実際に触れ合うことで教育になるという考えに基づいています。それは否定できませんし、私自身も多くの動物に触れ、飼い、殺した経験をして得たものも多いです。

しかし、動物福祉の教育をする場面でわざわざ動物福祉を犯すべきではないという考えから、近年全国的に代替に人形などを使用した教室が広がっています。ここまでこの記事もそれを大前提に書いてきました。

そのような教室で使う人形のポイントをいくつか紹介します。

リアルなもの

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人形だけでなくイラストでも言えることですが、キャラクターや擬人化したものではなく、できるだけリアルなものを選びます。リアルなものを使用することで、その動物のニーズを想像しやすくなります。

消毒できるもの

洗濯や消毒がしやすいものにしましょう。

パーツが取れない

小さいパーツが取れることは、特に小さい子どもの場合危険です。

本物同様に扱うこと

教育者も子どもも、人形を本物の動物として丁寧に扱うようにしましょう。RSPCAのデイビット氏は、人形をテーブルに一時的に置くだけであっても、捕食者(例えば猫)の隣に被食者(鳥)を置くことを避けていました。もちろんこれには限度がありますけど、そういう心遣いが大切というのもまた立派な教育です。

擬人化しない

何度も言及しますが、その種によるニーズを理解し、違いを理解することが教育です。

学習指導要領

【生活編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説より抜粋

最後に少し固い話になってしまいますが、学校教育は学習指導要領のもと行われています。英国のRSPCAですら日本の学習指導要領をチェックし、それに沿う形での教育方法を提案しています。

当然、日本にいる私達もここからはずれて教育するわけにはいきません。特に学校内では教員の方と打ち合わせを行った上で実施しましょう。学校外でも、要領に沿った形での実施が望ましいと思います。

そもそも要領を読んでみると、これまで記載したような教育がとても生きる内容になっています。この記事を最後まで読んでいただいたみなさまは特に外すことはないと思いますけどね。

最後に

ぜひみなさんの教育実施経験をお聞かせください。

こういうことやったら好評だった。これは失敗したなど。

私自身は保健所時代に動物愛護推進員の協力があって、その地域の小学校における動物のいない動物愛護の授業を根付かせることができました。

今でもそこの保健所職員が各小学校に行って授業をしています。

もう10年ほど前の話なので、今はどんどん内容も良くなっていっていると思いますが、「犬は登録が必要です。鑑札をつけてください。おうちのわんちゃんはこんな札つけてる?」というのは必要なかったと思っています。それに気づいたのは異動直後で、少し後悔しています。

当時は子どもを通じて親を正すという意識をして犬の鑑札に触れていましたが、そこになんの意味もないなと今では思います。

こうしてRSPCAの話を聞いたり、色んな経験をさせてもらった今ならよりよいものができそうです。

※10年前!?こいつ何歳だよという余計な詮索はご遠慮ください。公務員1年目のできごとです(自ら晒していくスタイル)。

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