「残された動物どうしよう」では遅い

現在、当院は地域に根差した福祉従事者、特に訪問支援や居宅支援をする介護支援専門員(ケアマネ)さん、訪問介護士(ヘルパー)さんを中心に話を聞いて回っています。

「獣医さんが何しに来たの?」という方から、「猫で困っています!」と目をキラキラさせてくれる方まで様々な反応があります。

動物問題に頭を抱えている福祉従事者さんたちから一番多い質問は

「(置いてけぼりにされた犬や猫を)引き取ってくれるの?!」

です。残された動物のことを気にかけてくれていることが伝わって来ますし、実際に引き取り手を探したこともある方もいて、とても嬉しく思います。自分の仕事(人の福祉事業)で多忙の中、その気遣いに頭が下がります。

「残された動物どうしよう」では遅い

しかし厳しい結論からいうと、飼えなくなった時にどうにかしなければと思っても時すでに遅し。

保護してくれる保護団体がすんなり見つかればそれに越したことはありませんが、それも難しいのが現状です。

理由は、保護団体もキャパオーバー、手が回らない、資金不足だからです。

  • 突然
  • 医療情報や性格不明な
  • 何頭もの動物を
  • 無料で

このような引き取り依頼はさすがに無理があります。

「引き取ってくれるの?」の質問には、私も「難しいです」と回答します。キラキラした目で話を聞いてくれていた福祉従事者さんの目から大きな失望を感じざるを得ません。そもそも当院は保護団体ではなく動物病院なのですが…

申し訳なさと少しばかりの無力を感じながらも、この現状を打開するための話を続けます。

獣医師の早期介入で可能性を広げる

飼い主である利用者さんの急な入院入所、または死亡などの「有事」は避けられないことも多いでしょう。

その時はもちろん引き取り手を探すことになるのですが、先述した4つのポイントをクリアするほど、引き取り手は探しやすくなります。

  • 突然
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突然

急に見知らぬ人から依頼されて「ハイ」とふたつ返事で動物を引き取ってくれる人は、常識的に考えて、いません。また、飼い主が見知らぬ人に快く譲ることもほぼありません。

里親探しを突然発生した急務にしないために、飼い主と引き取り手双方の準備は時間をかけて行うべきです。有事の際はどうするかについて飼い主と話すことは、信頼を勝ち得た獣医師なら可能です。

医療情報や性格

この子は避妊手術をしてあるのか?

ノミやダニの予防はしてあるのか?

年齢は何歳くらいか?

どれくらい人に懐いているのか?

他の動物とうまくやれるか?

感染症や大きな病気はあるか?

などの情報がないと、保護団体は受け入れにくいです。

つまり普段からこれらの情報を集めておくことがかなり重要なポイントになってきます。さらにいえば、去勢もしてあるし、ノミの予防もできている、おまけに人懐っこい性格となると、里親は探しやすいでしょう。

この話をすると、そんなの誰がやるんだとお叱りを受けることがあります。

それは当然、飼い主さんです。その飼い主さんを説得するチャンスをいただけないかと思い、早めの私への相談をお願いして回っています。

何頭もの動物

何頭もの動物を引き取るキャパがある保護団体も少ないですし、1頭1頭里親を探している時間もありません。

まずは飼育頭数や野良猫の数を増やさないようにすること。

なにもいきなり去勢手術をしようという話ではありません。例えば野良猫なら、エサの与え方ひとつで新たに集まってくる猫を減らすことも可能です。このように無料でできることもあります。

最終的に不妊去勢手術を説得できればベストですけどね。

次に徐々に減らしていくこと。

1頭ずつ里親を探していく了承を飼い主さんから取れれば、可能になります。1頭なら個人の里親さんも選択肢に入ってきますし、施設が空き次第入れてと保護団体にお願いするという選択肢も浮上します。

無料で

個人の里親さんを探す場合、通常無料です。ただ、何人もの里親さんを探すには時間も労力もかかります。また、情報の乏しい動物の里親探しは難航を極めます。繰り返しになりますが、不妊手術、ノミダニ予防してある、人懐っこい子じゃないとかなり厳しいです。

無料で保護してくれる団体もなくはないですが、継続運営には必ず資金が必要です。

話が脱線してしまいますが、保護譲渡活動のコストについては以下の記事にまとめています。「無料で引き取ってくれないの?」という前に、ぜひご一読ください。

遅いと言い切るもうひとつの理由

置いてけぼりの動物をどうにかすることは、その動物たちのためにはなります。しかし飼い主や訪問する方々の健康福祉は向上しません。

獣医師の口から言うのもなんですが、私は人の健康福祉の向上を最優先課題として動いています。動物が置いてけぼりになった時はじめて相談するのではなく、動物がそのお宅にいるとわかった時点ですぐに相談していただかなければ、人の健康福祉向上の目的は達成できません。

人の健康福祉向上は、福祉業務従事者と当院の共通の課題です。

相談する時期

  • かかりつけ動物病院がない
  • 2頭以上の動物がいる(野良猫含む)

これらは当院に相談する十分な理由です。猫屋敷になってからでは遅すぎます。このような動物問題にかかわっている関係者の間では、「2頭以上は多頭飼育」という言葉もあるくらいです。

「半年前は2頭の野良猫がエサを食べに来ていただけだったのに、すでに13頭になっていました…さらにまた生まれそうで…」

と息子さんが当院に手術依頼に来たこともありました。この件は息子さんが危機意識を持ってくれていて助かりましたけどね。

相談しなくてもいい条件

  • 毎年のワクチン接種をしている
  • 定期的なトリミングに通っている

これらができているペットは問題ありません。近くにかかりつけを持つことが飼い主さんにとってもペットにとってもベストです。

ただ、それが難しくなった時点で相談していただきたいです。病院に通うことが難しくなった理由は様々想定されます。いずれにせよその状況を放置した瞬間、不適正飼養や多頭飼育は一気に進み、人と動物双方の健康福祉は著しく低下します。

飼い主の正常な判断能力

早めの相談、例えば1,2頭の野良猫にエサをあげている時点、かかりつけに通院できなくなった直後だと、まだ飼い主さんも正常な判断ができます。

認知症による正常な判断能力の低下について言及しているわけではありません。それも理由のひとつにはなりますが。

すでに歯止めが効かない多頭飼育や衛生面の悪化した後では、自暴自棄といいますか、もうどうでもいい!もうなにしても無理!とムキ&諦めモードになってしまいます。こうなってしまっては、飼い主さんの説得はとても難しいです。

説得する側も、「こんなことになってしまって!どうにかしないとやばいよ!」と強い口調になりがちです。それでは聞く耳を持ってくれません。

「あら、最近野良猫ちゃんが来てるの?」「野良猫ちゃん診てくれる獣医さん連れてきたからお話してみて」

「足がなくなってしまって買い物も大変よね。買い物はヘルパーができるけど、わんちゃんの病院は連れていけないの」「往診してくれる獣医さん紹介するね」

これくらい余裕のある話し合いができると、とてもいい関係ができます。

最後に

ここまで長い文章を書き連ねてきました。いずれにせよ共通するのは、早期の相談が重要ということをお分かりいただけると幸いです。

何度も話しあい、飼い主の信頼を勝ち取り、すぐにできる提案からはじめ、動物の管理をひとつずつ向上させ、動物医療を提供し、それを継続させる。とにかく動物問題には時間が必要です。

早期相談で、飼い主も、訪問員も、動物も健康福祉向上を目指しましょう。

やまがた不妊去勢クリニックでは、【人福祉×獣医師】という新たな掛け合わせにより人と動物の健康福祉向上を目指しています。「人福祉現場に獣医師を」を合言葉に、高齢者、障がい者をはじめとする要福祉支援者宅での動物問題に切り込んでいます。

飼い主である利用者さんのかかりつけ獣医師兼、福祉従事者がすぐに相談できる顧問獣医師であり、公衆衛生獣医師であります。

福祉従事者の方々はとにかく多忙なことを承知しているつもりです。

だからこそ早めに当院に相談という形で、悩みの種になる動物案件をこちらに投げて欲しいのです。

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