適正飼養と環境エンリッチメント

某猫がとある市の観光大使に任命されて話題を呼びました。猫自身はとても愛嬌があって、私も大好きなクセつよ猫です。しかし、残念ながら屋外でフリーにしていることで批判が集まってしまいました。

飼い主の批判に対する説明noteを読んでみましたので、引用しながら考察を進めたいと思います。noteを読んで、この方に限らず適正飼養と環境エンリッチメントを誤認している方も多いのではないかと感じました。当該飼い主やnoteがきっかけになったことは事実ですが、私自身も改めて勉強するとともに、読んでくれた方の糧になることを目的にこの記事を書きます。

環境エンリッチメントとは

飼い主は外でフリーにしている理由を環境エンリッチメントで説明しています。当該noteを太字箇所含めてそのまま引用してみます。

環境エンリッチメントとは、「飼育動物の正常な行動の多様性を引き出し、異常行動を減らして、動物の福祉と健康を改善するために、飼育環境に対して行われる工夫を指す。飼育動物の福祉を向上させるもっとも強力な手段の1つとされる(Wikipedia)」こと。

超ざっくり言うと、猫にとって幸せな環境で育てよう、ってことです。

https://note.com/montanonichijo/n/n03ac1c66b458

Wikiの引用に一部太字にして簡単に説明していますが、まず私が一部を太字にするなら以下のようにします。

飼育動物の正常な行動の多様性を引き出し、異常行動を減らして、動物の福祉と健康を改善するために、飼育環境に対して行われる工夫を指す。飼育動物の福祉を向上させるもっとも強力な手段の1つとされる

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88

つまり、飼育環境を工夫することがエンリッチメントなのです。飼い主が太字にしているのは目的部分であって、本質ではありません。つまり幸せな環境で育てるという目的であり、その手段のひとつが環境エンリッチメントです。超ざっくり言うと、猫にとって幸せな環境で育てよう、ってことではありません。幸せな環境を提供する工夫をすべきなのです。更にWikiにはこう続きます。

空間エンリッチメント

空間エンリッチメントは、飼育環境の構造や、梁などの設置物、動物が操作する遊具や床材などによるエンリッチメントである。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88

このような空間エンリッチメントが大事であり、室内では無理だからフリーで外に出すというのは、工夫の放棄です。環境エンリッチメントを盾に反論しているとコメントしている人がいましたが、飼い主が実施しているのはそもそも環境エンリッチメントではありません。

環境エンリッチメントは、適正飼養の先にあります。適正飼養ができなければ、環境エンリッチメントを語る資格もありません。適正飼養(屋内飼養)か、環境エンリッチメントかを選ぶものではないのです。

適正飼養下ではじめて環境エンリッチメントに取り組むことができる

屋外にも出られる環境づくり

適正飼養=屋内飼養は周知の事実です。では、一生室内に閉じ込めておくしかないのでしょうか。それは違います。環境エンリッチメント、つまり工夫により、外の四季の変化を感じ、刺激を受けることが可能な飼育環境を作ることができます。

下の写真はイギリスのとあるキャッテリーを外から撮った写真です。横並びで8部屋映っています。立派すぎる施設なので、完全再現は難しいですね。ただ、似たような施設を作ることはできます。実際、日本でもこのような施設を用意して猫を飼育している方がいます。

遠目からの写真でわかりにくいですが、屋外飼育場にはキャットタワーがあり、隠れる場所があります。完全な外との区画は格子になっているため、雨、風、気温、湿度、香り、音、すべてを感じることができます。

猫の部屋の屋外部分

外が気になって出たものの、嫌になったら室内に戻ってぬくぬくすることもできます。下の写真には出入りする小窓が見えます。この猫はこの小窓から出入り自由です。

屋内部分

隣の家の壁との隙間が1mもない東京とは違い、例の観光大使猫さんの家には広い庭があるようです。飼育部屋に連続した庭の一部をしっかり区画した屋外飼育スペースを確保してはいかがでしょうか。これは贅沢ですし、ここまで完璧にできなくても、このような工夫こそが正しい環境エンリッチメントだと私は思います。

当該猫と飼い主への意見

猫への心配と猫による加害、両面から様々な批判をされたのだと思います。ただ、私がこの飼い主にひとつだけ意見するとすれば、「危ないよ」ということです。犬でも多いのですが、フリーで散歩をさせている方は全員「うちの子は大丈夫」と胸を張っていいます。勿論その子のことを一番よく知っているのは飼い主さんであり、今まで危ない目にあったことがないから言えることでしょう。しかし、事故のことを一番知っているのは私たち動物のプロです。数々の動物事故をみてきました。事故で亡くなった動物の飼い主は必ず言います。

「今まで大丈夫だったのに」「こんなこと初めて」「急にどうしたんだろう」「呼べばすぐに戻ってくると思った」「近くで見てたから大丈夫だと思っていた」「間に合わなかった」

こうやって後悔して欲しくないから、意見や批判をしている人が大半なのではないでしょうか。人と動物において、経験と信頼は比例しますが、経験と安心は反比例します。経験を積むほど、信頼を築けても安心はできないのです。そんな経験豊かな人が危ないと警告しています。こういった経験がいくつも重なって、適正飼養は定義されています。今からでも屋内飼養への切り替えを再検討していただくことを願っています。繰り返しになりますが、環境エンリッチメントは適正飼養のその先にあります。

事故を起こしたら…

批判はTwitterのみで、ほんの一部の人達だけです。YouTubeとインスタは平和です

https://note.com/montanonichijo/n/n03ac1c66b458

多くのこの猫のファンは応援コメントを送っていて、批判は一部のようです。ただ、批判が少数派であること以上に、万が一猫が事故を起こしたときのことを私なら考えてしまいます。事故というのは、猫自身がケガや死亡することだけでなく、猫の行動によって発生した交通事故等による人の被害も想定しなければなりません。

後悔してもしきれない。猫にも申し訳ない。被害者になんて謝ればいいのか。応援してくれていた方を落胆させてしまうことだろう。応援が批判に変わるかもしれない。どんな顔して報告すればいいのだろう。

そんな思いが駆け巡るのではないでしょうか。観光大使に任命した市も同様です。有名な駅長猫が交通事故で亡くなった例もあるので、その悲劇を繰り返してほしくないです。今からでも変えることはできます。

批判に踊らされることなく、落ち着いて専門家の指導を煽り、飼養方法を見直してくれることを願っています。

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