多頭飼育問題への対応~多頭飼育ガイドライン解説②~

2021年環境省が出したガイドライン「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」を簡単に解説していきたいと思います。

120頁以上に及ぶ大作で、厚生労働省と密に連携して作りこまれています。

大作すぎて読むのが嫌になると思いますので、当院のコメントも添えて解説します。

音声解説はこちらから

多頭飼育ガイドライン解説①を読んでいない方は、こちらからどうぞ。

①では、多頭飼育の問題は川上にいろんな問題があり、その結果として川下に流れてくる問題のひとつに動物の多頭飼育があるよということでした。

多頭飼育はどのような問題か~ガイドライン解説①~

官民を超えた多様な主体・関係者による連携の重要性

ガイドライン第2章の最初に『官民を超えた多様な主体・関係者による連携の重要性―連携なくして解決なし』と太字で書かれています。

多頭飼育の解決には、3つ観点で対策することが重要です。

  • 飼い主の生活支援
  • 動物の飼育状況の改善
  • 周辺の生活環境の改善

図では、中心に多頭飼育をしている飼い主がいて、その周囲に左から時計回りに「行政」「動物専門家」「近隣住民」「社会福祉的支援」が書かれています。

多機関連携にあたっては、飼い主や関係者の個別の状況を踏まえ、関係者となりうる主体とその役割を理解することが重要だからです。

お互いの機関にできないことがあることを理解し、その役割を担当するのはどこかを把握し、そこに依頼することで、担当すべき機関がその役割を全うできます。

連携にあたっては、体制の構築も重要です。関係主体は案件ごとに異なりますが、多頭飼育問題に関わることが多い主体を中心に、常日頃から情報交換を行うこと、連絡窓口を明らかにすること、対応の仕方を決めておくことによって、多頭飼育問題の早期発見やスムーズな対応が可能となります。

人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて

主な関係機関・関係者

多頭飼育に関係しうる機関とその役割や多頭飼育とどのように関係することが想定されるかが記載されています。例えば…

社会福祉協議会

社会福祉協議会は、民間の社会福祉活動を推進することを目的とした営利を目的としない民間組織
であり、社会福祉法に基づいて設置されている。
各種の福祉サービスや相談活動を通じた生活課題への支援、ボランティアや市民活動の支援、権利
擁護の推進などを、地域の様々な社会資源とのネットワークをつくりながら行っている。上記業務
にて飼い主との関わりがある場合には、飼い主と地方自治体のつなぎ役としての関与を行う場合が
ある。また、多頭飼育問題の解決に向けた会議等へ参画している事例もある。

ガイドライン28頁

地域包括支援センター

介護保険法に基づき、包括的支援事業等の事業を実施し、近隣住民の心身の健康の保持及び生活の
安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援す
ることを目的とする施設。
介護等に関する総合相談窓口として機能していることから、飼い主が高齢者である場合に、同セン
ターを通じて発見につながることもある。

ガイドライン27頁

居宅介護支援事業所

介護を必要とする人が、自宅で適切にサービスを利用できるように、介護支援専門員(ケアマネジ
ャー)が心身の状況や生活環境、本人・家族の希望等に沿って、ケアプラン(居宅サービス計画)
を作成したり、ケアプランに位置づけたサービスを提供する事業所等との連絡・調整等も行ったり
する。
飼い主が要介護認定を受けている場合もあり、介護支援専門員を介し、多頭飼育の発見につながる
ことがある。また、多頭飼育を改善するために動物を引取った後においては、日ごろの見守り等が
再発防止の役割を果たすこともある。

ガイドライン29頁

地域住民

多頭飼育問題への対応前には対応の概要について、また、対応中にあっては、必要に応じて説明可能な範囲で、対応状況や今後の見通しなどについて、情報共有する必要があります。自治会等を通して地域住民や大家に説明するなど、彼らの不安や不信感を取り除くことで、円滑に対応することが可能となります。中には、飼い主宅前に公用車を駐車する、屋外で飼い主と話をする等、適切に指導を行っている様子を近隣住民に見せることを心がけていた事例もありました。

ガイドライン39頁

地域住民は、多頭飼育の被害者です。どうにかしろ!と苦情をいうこともあります。そのような方には、どのように対応しているか説明したほうがいいよと記載されています。

進めてくれている対策がわかる安心感を与えて、時間がかかることへの理解を得ることがとても重要です。これが徹底されると、苦情者が協力者に変わります。

協力者に変わるというのは、喜んで協力します!と態度がコロッと変わるのではありません。

ちゃんと指導助言に従ってるか監視しといてやる!!という立ち位置というか、自ら監視の責務を負ってくれるという意味です。つまり、地域の見守りができあがります。

ここで、指導内容は不利益情報に該当するから個人情報保護法で言えないことになっている。

なんてバカなことをいう行政職員もいますが、そんなこと言ってるから解決できないんです。個人情報漏らせといっているわけではないですよ。

これについてはすでに記事にしていますので是非参考にしてください。

動物愛護ボランティア(動物愛護推進員)

ボランティアはなくてはならない存在です。しかし、注意点もあります。当院は、トラブル回避のため、注意点を理解しているボランティアさんとしか協働しませんし、紹介もしません。

注意点1 動物救護を優先しすぎない

劣悪な状況におかれている動物の救護は重要なことですが、たとえその動物を救護しても、
飼い主が行動を変えなければ、多頭飼育問題は容易に再発し、また新たな動物が同じような
状態におかれることになります。動物の救護だけでなく、その飼い主の置かれている状況も
把握し、どうすれば飼い主も動物も幸せになるのかを考えることが、根本的な解決の近道と
なります。

ガイドライン41頁

多頭飼育は動物の救護だけが問題ではありません。その先に飼い主と生活環境改善が目的にあります。なので、動物救護しか考えずに先走ってしまうことは避けたいです。

これは当院が常々いっていることです。

救護しても飼い主と生活環境が変わらなければ繰り返します。目の前の動物だけ助けて、将来起こりえる同じ状況を見ないのは、自己満足です。

結果として、動物を何匹か残すことも選択肢のひとつです。

注意点2 無理をしない/丸投げしない

動物愛護ボランティア等や民間の動物シェルター自体が、動物の救護を優先するあまりに自らの救護能力を超えて動物を保護した結果、動物を適正に飼養できなくなり、二次的に多頭飼育問題が生じる危険性もあります。動物愛護ボランティアは、動物の受入れに関する自らのキャパシティを把握し、これを超えることのないよう心がけること、また、行政側は、善意で関わっている動物愛護ボランティアに過剰な負担がかからないように、受入れ側の能力を踏まえた動物の取扱いが行えるように全体像を把握することなど、関係者同士で情報共有しながら対応方針を定めることが大切です。

ガイドライン43頁

わたしが『ミイラ取りがミイラになる案件』と呼んでいることについても、ガイドラインでは言及されています。特に保護をしてくれるボランティアさんは、自らの保護能力を過信せず、無理のない範囲で保護して欲しいと思います。

同時に、行政側もボランティアに丸投げしないことも重要です。ボランティアの〇〇さん、引き取ってよ~とか軽率に依頼しないでください。

信頼できるボランティアさんであるほど任せたくなる気持ちはわかります。

でも、最終的に引き取ってもらいやすいように動物の状態を把握したり、できる医療は入れてあげたり、引き取ってもらったらもう問題解決までつながる!という筋道を明確にしてから依頼しましょう。

そこまで問題解決のゴールが見えて、初めて引き取りに意味が生まれます。

引き取るボランティアさんもこの点は意識したほうがいいですよ。
私が引き取ったら解決するのか?の視点は常に持っておくべきです。
でないとキリがないし、なんでも引き取ってくれる引き取り屋認定されてしまいますので。

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