個人情報「過」保護

序文

当院は福祉現場に介入するにあたり、社会福祉の様々なことについて協働している関係者さまに教えて頂いたり、自ら勉強しています。この中で得た知識を復習がてら記事にまとめたいと思います。

これを公開することにより、誤った理解であればご指摘をいただき、正しい知識となっていれば読者の糧にしてもらえると嬉しいです。

単にまとめるだけならもっといい記事があると思うので、福祉の素人であるからこそ感じた疑問や、素人だからこそできる発想・提案も併せてできればなと思っています。

僭越ながら、これが意外と大きく道を外していないこともあると考えていますし、少し角度の違うアプローチを参考にしていただける福祉事業者さんも少なくないからです。

「新人が疑問に思うこと考えることは、大体正しい」

私が仕事のいろはを教えてもらった尊敬する上司の言葉です。

この言葉を信じ、謙虚に新しい業界に貢献したいです。

個人情報の壁

今回は、個人情報の取り扱いについて言及します。

音声解説はこちら(前編)
音声解説はこちら(後編)

個人情報保護法ができてから、官民問わずどの組織も、はたまた個人にも個人情報の徹底管理が求められる世の中になりました。

当事者意識も加速度的に高まっています。

もちろん、個人情報の保護は徹底されるべきであり、個人情報の扱いにはコストをかけるべきです。

一方で、個人情報に該当する可能性が少しでもあれば一切外に出さないノーリスク運営をする行政機関も多く、「個人情報保護を何も動かない理由に使っていないか?」と感じる例すらあります。

近年の福祉の現場では、多機関連携を必須とするケースが注目され、包括ケアや重層的支援という言葉も浸透しています。

このような支援体制の構築には、多数の関係者に要支援者の個人情報の共有が必須となることは言うまでもありません。

そこで今回は、個人情報はどこまで共有できるのかについて、法令やガイドラインをまとめ、考察していきます。

本人の同意がすべて

個人情報の共有は、本人の同意がなければ不可能です。

逆に明確な利用目的を伝え、本人が同意してくれれば可能です。

そりゃそうだろ!という突っ込みが聞こえてきそうですね。

でも現実には、これを忘れている、やりたくない、わかっていない人は多くいます。

個人情報「過」保護な例

本題に入る前に私が経験した例をひとつ紹介します。

あまり行政批判はしたくないですが、個人情報保護を勘違いしている典型例を経験したことがあるので簡単に紹介します。

保健所がペットの適正指導に行った際、どんな様子だったか、どんな指導をしたかは個人情報に該当します。と保健所の担当者に回答されたことがあります。だから、指導にいった際の様子などを報告することはできませんと。

根拠法令は個人情報保護法第78条第2号。

第七十八条 行政機関の長等は、開示請求があったときは、開示請求に係る保有個人情報に次の各号に掲げる情報(以下この節において「不開示情報」という。)のいずれかが含まれている場合を除き、開示請求者に対し、当該保有個人情報を開示しなければならない。

 開示請求者以外の個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、  ~中略~  開示することにより、なお開示請求者以外の個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

個人情報保護法

法令とその解釈に異論はありませんが、指導に入った職員が本人の同意を取ればそれで情報共有は可能なはずです。

私が経験したこのケースでは、窓口の職員がそれを怠ったと言えます。

なぜならこのケースは私がケアマネさんから相談を受けて支援に入って、私が本人の同意を得て保健所に情報を提供したケースだからです。

保健所はこっちが提供した情報を持って現場にいくのにも関わらず、行った際の様子を共有してもらえないとはどういうことだと憤慨しました。

情報提供者が苦情者ならまだ理解できますが、ケアマネさんと協働して、本人の信頼関係を得て、適正飼養の助言と獣医療を提供し、本人に保健所への情報提供の許可をもらっている山形へフィードバックすらできないと。

「山形先生から聞いて来てみたから、今日のことは山形先生に伝えておくね」これだけで済む話です。

単に個人情報に該当するか?だけを考えていたのでは、こういう身もふたもない結論を出すことになります。

どこまで、何のために開示するか、開示した結果本人に利益を付与できるか、不利益になるか。そこまで考えるのが、個人情報の取扱いというものでしょう。それが作業ではなく、仕事というものです。

それが個人情報にあたるかどうかを聞いているわけではありません。個人情報にあたるならその利用や共有ラインをしっかりと審議すべきと言いたいのです。

過保護への注意喚起

福祉関係のガイドライン等では、個人情報「過」保護により支援が届かない事態を避けるべきと明記されています。

地域ケア会議(介護保険法)

地域ケア会議とは、介護保険法第115条の48に基づき設置される会議で、地域包括ケアシステムを実施するために開催されるものです。ここでは当然個人情報が共有されないと、包括的な支援ができません。

そのため、個人情報は過保護せずしっかり共有するように明記されています。

個人情報に対しては、適切な対応をとる必要がありますが、個人情報を気にするあまり関係者間での情報共有が満足に図れなくなると、支援内容の検討はもとより、支援が円滑に運ばなくなることが懸念されます。そのような事態を招かないために、個人情報保護法等をベースとし、市町村が地域包括支援センターと協力しながら、地域ケア会議における個人
情報の取り扱いについての基本的な方針を定め、周知することが大変重要です。

(略)

個人情報の取り扱いに関する基本的な方針を取りきめる際は、いわゆる「過剰反応」についても考慮し、個人情報保護条例を適切に解釈・運用することが求められます。
「過剰反応」とは、社会的な必要性があるにもかかわらず、法の定め以上に個人情報の提供を控えたり、運用上作成可能な名簿の作成を取り止めたりするなどの行為を指します。

地域ケア会議運営マニュアルp47

私はわかりやすく個人情報「過」保護という表現を使いましたが、ケア会議のマニュアルでは「過剰反応」と表現されています。

本人同意なしでも可能

地域ケア会議では、本人の同意なしで個人情報を共有することも可能です。

本人の同意が無くとも、収集した目的の範囲を超えて外部に提供できる場合は、以下の3点が存在します。
①法令の定めがある場合
(略)
②本人の利益を守ることが優先される場合(緊急時)
(略)
③個別の条例による場合
(略)
 ○なお、市町村または地域包括支援センターが当該個人情報を収集する際に、収集の目的と情報を共有する関係機関について包括的同意を得ている場合は、本人同意に基づき情報提供することができます。

地域ケア会議運営マニュアルp47

これは必要に迫られれば問題ないという認識であり、ケア会議で利用する場合はすべて同意不要を意味するものではありません。

ただ、「特例があれば柔軟に対応してください。その際は、情報提供側が責任を問われないようにしておきます」というような、国による現場への配慮も伺えます。

「当該個人情報を収集する際に、収集の目的と情報を共有する関係機関について包括的同意を得ている場合は、本人同意に基づき情報提供することができます。」とあります。

多機関連携必須ケースが多い現代の社会福祉支援の現場においては、最初から包括的同意を本人にもらっておくべきとすら言えるかもしれません。

参加する人の限定はない

極論、ケア会議では本人の同意が得られていなくても個人情報の共有が許されているため、この会議に参加する人自体が行政職員などに限定されているのかという疑問が出ます。

しかし、そんなことはありません。

専門知識を有していない地域住民などの参加者でも理解しやすい事例提出用の様式を用意することが考えられます。

地域ケア会議運営マニュアルp51

支援会議の構成員については、自治体職員、重層的支援体制整備事業の委託先の支援員、各種支援関係機関の相談支援員、サービス提供事業者、福祉のみならず就労、教育、住宅その他の関係機関の職員、社会福祉協議会職員、民生・児童委員、地域住民などが想定される。

支援会議の実施に関するガイドラインP3

ここからわかることは、行政組織や地域包括支援センター等の公的機関、NPO等非営利組織に限らず、必要ならば一般住民も参加可能ということです。

役所内などなら個人情報も共有は可能です。(これはこれで縦割りという別の問題が出てくるのですが。)

ガイドライン等で役所内にとどまらず、一般住民にも必要であれば個人情報を共有すべきといっています。

公的機関を一歩でも出ると全くもって情報が遮断されるケースはまだまだあります。外部への共有情報については慎重になるべきですが、「個人情報だから出せない」と反射的に決定することが正解ではないということ。

繰り返しますが、共有するかどうか慎重に決めることが必要であり、すべて共有できないと突っぱねている場合ではないのです。

個人情報「過」保護のあまり連携が進まないことには十分注意すべきです。

その他法令

介護保険法による地域ケア会議だけでなく、他の法令に基づく会議や協議会でも同様の規定が設けられています。

記事の最後に付録としてつけておきますので、参考にしてください。

基本的に構造は同じです。守秘制約を結ぶことで情報共有をし、支援体制を多機関で構築することが狙いです。

地域ケア会議の運営マニュアルでは守秘制約の参考様式まで提示されています。

地域ケア会議が本人の同意を得ずに情報共有できる例外規定を設けている一方で、後に付録で紹介する3法令はそもそも守秘義務を設けることで、情報の秘密性を担保する形を取っています。

会議の中で情報は共有するのが大前提ということです。

なので後に紹介する3例では、わざわざ本人の同意なく情報共有が可能な規定を設けていませんし、誓約書の参考様式を用意していないと考えられます。

まとめ

福祉支援は他機関連携が必須の時代です。先にあげた保健所職員の過保護の例のような意識では連携は難しいでしょう(紹介例はいずれの会議内でもありませんが考え方という点で)。連携が難しいということは、解決できる課題がかなり限定されてしまうということです。

今回挙げた各法令は過保護、過剰反応はよろしくないと一蹴しています。

通り一辺倒に「個人情だからダメ」と回答する人が多いのでしょうね。さすがに国も明記するほど。

個人情報の管理は厳密にすべきですが、個人情報保護保護法が壁になって支援が届かない、本人の不利益になっては本末転倒。

「困っている人の周りに個人情報の壁が立ちはだかり、支援者が入れない」

こんな風刺画、誰か書いてくれませんか?笑

付録

重層的支援体制整備事業の支援会議(社会福祉法)

重層的支援体制整備事業の中で実施される支援会議では、むしろ個人情報の共有を重要視しているように読めます。

(2)支援会議とは
○ 支援会議(社会福祉法第 106 条の6)は、会議の構成員に対する守秘義務を設け、構成員同士が安心して複雑化・複合化した課題を抱える相談者に関する情報の共有等を行うことを可能とすることにより、地域において支援関係機関等
がそれぞれ把握している複雑化・複合化した課題を抱える者やその世帯に関する情報の共有や、地域における必要な支援体制の検討を円滑にするものである。
(略)
○ また、支援会議は、行政内部の関係部署も含めて、多くの関係機関・関係者から構成される。創設の狙いが、早期的かつ予防的な関わりのため、複雑化・複合化した課題を抱える者やその世帯に関する情報共有の仕組み作りにあるこ
とや、(以下、略)

支援会議の実施に関するガイドラインP1

個人情報保護法による、例外規定(情報の共有が可能なケース)に重層的支援体制整備事業の支援会議が該当することも明記されています。

個人情報の保護に関する法律(略)では、本人の同意を得ない限り、あらかじめ特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないとともに、第三者に個人データを提供してはならないこととされているが、「法令に基づく場合」は、これらの規定は適用されないこととされており、社会福祉法第 106 条の6第3項の規定に基づく協力要請に応じる場合は、この「法令に基づく場合」に該当するものであり、個人情報保護法に違反することにもならないものと解される。

支援会議の実施に関するガイドラインP8

そのため、会議開始時に構成員に対して守秘義務を負わせ、場合によっては誓約書を取ることもあるかもしれません。先の地域ケア会議のマニュアルでは、誓約書の参考様式も提示されていました。

第3.守秘義務について
(1)守秘義務の趣旨
支援会議は、その構成員に対して守秘義務をかけることによって、支援関係機関や関係者の積極的な参加と、積極的な情報交換や連携が可能となる仕組みを設けたものである。
支援会議がこうした法律の企図した機能を発揮し、重層的支援体制整備事業の円滑な実施を図り、必要な支援体制にかかる検討を早期かつ適切に行えるようにするために、社会福祉法第 106 条の6第5項に基づき、すべての構成員がこうした守秘義務を課される趣旨やそのルールに関する基本的な考え方をきちんと理解した上で会議に参加することが基本となる。

支援会議の実施に関するガイドラインP6

守秘義務違反には罰金刑まで設けられています。

支援会議の構成員が正当な理由なく、支援会議の中で共有された潜在的相談者に関する個人情報等を支援会議の外へ漏洩させるなど守秘義務に違反した場合には、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処される(社会福祉法第 130 条の6第
2号)といった罰則を伴う秘密保持義務が規定されている。

支援会議の実施に関するガイドラインP7

支援会議(生活困窮者自立支援法)

生活困窮者自立支援法第9条により実施される支援会議も、重層的支援体制整備事業の支援会議と同様の文言で、情報共有の重要性と守秘義務がガイドラインに明記されています。

生活困窮者に対する支援に携わる関係者間の情報の共有及び支援体制の検討を行う支援会議を法定し、会議体の構成
員に対して守秘義務をかけることによって、支援関係者の積極的な参加と、積極的な情報交換や連携が可能となる仕組みを設けたものである。

支援会議の設置及び運営ガイドラインp14

生活困窮者への自立相談支援及び被保護者への自立支援のあり方について

個人情報保護法の例外規定も重層的支援体制整備事業の支援会議と同様です。

(略)「法令に基づく場合」は、これらの規定は適用されないこととされており、改正法による改正後の法第
9条第3項の規定に基づく協力要請に応じる場合は、この「法令に基づく場合」に該当するものであり、個人情報保護法に違反することにもならないものと解される。

支援会議の設置及び運営ガイドラインp15

守秘義務違反も同様です。

守秘義務に違反した場合には、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処される(改正法による改正後の法第
28 条)といった罰則を伴う秘密保持義務が規定されている。

支援会議の設置及び運営ガイドラインp15

構成員も同様に、官民、組織・個人問わず必要ならなっておらうべきと記載されています。

支援会議の構成員については、自治体職員、自立相談支援事業の相談支援員、サービス提供事業者、地域において生活困窮者に関する業務を行っている福祉、就労、教育、住宅その他の関係機関の職員、社会福祉協議会職員、民生・児童委員、地域住民などが想定される。
また、支援を必要としている生活困窮者を確実に支援につなげ、しっかりと支援していくためには、 (略) 新聞配達所、郵便局など個別訪問により市民の日常生活に関わる事業所など地域の関係機関のほか、地域に根ざした活動
を行っている民生・児童委員、地域住民の方々などを構成員とすることも重要である。

支援会議の設置及び運営ガイドラインp9

要保護児童対策地域協議会(児童福祉法)

児童福祉法第215条により規定される要保護児童対策地域協議会も上記法令と同様です。

第1章 要保護児童対策地域協議会とは

(3)こうした改正により、

[1]   関係機関のはざまで適切な支援が行われないといった事例の防止や、

[2]   医師や地方公務員など、守秘義務が存在すること等から個人情報の提供に躊躇があった関係者からの積極的な情報提供

が図られ、要保護児童の適切な保護に資することが期待される。

特に、地域協議会を構成する関係機関等に守秘義務が課せられたことにより、民間団体をはじめ、法律上の守秘義務が課せられていなかった関係機関等の積極的な参加と、積極的な情報交換や連携が期待されるところである。

要保護児童対策地域協議会設置・運営指針

罰則規定もあります。

第六十一条の三 第十一条第五項、第十八条の八第四項、第十八条の十二第一項、第二十一条の十の二第四項、第二十一条の十二、第二十五条の五又は第二十七条の四の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

児童福祉法

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