本気で挑む地域猫活動

はじめに

地域猫活動はとてもハードルの高い活動です。

中途半端な知識と計画で進めると必ず失敗します。そのような失敗例が全国的に量産されてきた結果、負のイメージを植え付けることになってしまいました。

それを止めるべく、厳しい視点でこの記事を書いています。地域猫活動反対記事ではありません。

本当に猫問題を解決したいと願う住民と解決に迫られた自治体に読んでいただきたいです。

この記事の最後まで読めずに「こんなん無理」という方がほとんどでしょう。高いハードルを乗り越えてやり遂げる気持ちのある方だけ、最後まで目を通すことができると思います。

繰り返しますが、それほど地域猫活動は難しいものです。しかし、やり遂げることで猫問題解決につながる唯一の方法でもあります。

地域猫活動とはなんぞや?という方はぜひ最初から読んでください。

地域猫活動の概要は理解している方や、すでに実施している方はFAQから読んでもらうのもいいと思います。地域猫事業を進めようと検討していたり、すでに推奨している自治体もFAQだけでもうまく活用してもらうことができる記事にしてあります。

なかなかコアな部分もFAQに入れてあります。

よくある質問と回答をまとめました

そもそも猫は特別待遇の動物です。場所によっては他人やその財産に被害を与える害獣でもあり、生態系を脅かす外来生物でもあるにも関わらず、猫好きな人が多く存在する愛玩動物

「害獣」「外来種」と言われることがどうしても納得できないあなたは地域猫活動に向いていないと思います。なぜなら、地域猫活動という施策自体が、この3つの特徴を持つ猫にだけ許されているからです。

山を禿げさせてしまうシカや、農作物を荒らすイノシシは単純に害獣として積極的に駆除されています。猫が即駆除対象になっていないのは、特別扱いです。

猫の被害を被って困っている人や野生動物に、本当に申し訳ないという気持ちをもつ。こうして初めて地域猫活動を行う権利をもらえる。常にそういう気持ちを忘れずに挑んでほしいと思います。

概要

地域猫とは、地域の理解と協力を得て地域住民の認知と合意が得られている特定の飼い主がいない猫です。適切に管理することで猫による被害を減らし、不妊去勢手術と外部からの侵入を予防し、一代限りの生を全うさせる猫を指します。この地域猫を徹底管理する活動が地域猫活動です。

目的

  1. 苦情や被害の減少
  2. 猫問題の解決
  3. 猫の減少

実施可能な環境(必要条件)

以下の3点は地域猫活動成功へ必要条件です。ここを満たせない場合、失敗に終わってしまうことがほとんどです。

住宅密集地

家がポツポツある程度の田舎は地域猫活動に不向きです。隣の家が何十メートルも先にあったり、隣り合っていても数軒しか家がまとまっていない環境では、想定される問題が容易に発生し対応も難しくなります。そもそもそのような場所では、近隣の迷惑になっていないことも多いです。地域猫の目的は地域住民の不満や被害を減らすことです。住宅密集地以外では地域猫ではなく、餌やりさんを説得して淡々と不妊去勢手術を進めるべきです。田舎でも、ある程度住宅が密集している住宅地なら条件クリアです。

住民数

田舎は不向きであることと関連するのですが、とりまとめ役員、猫の管理役、そして監視役。各部門にひとりではなく、複数人。意外と人数が必要です。

地域の規模にもよるので具体的に何人以上とは言えないのですが、数人だけで地域猫活動と呼べるしっかりとした活動を継続するのはとても困難です。多くの自治体が助成金交付要綱で地域猫活動母体の条件に3人以上等の最低人数を挙げています。

が、現実的には中心人物3人とその友人たちだけでは「地域猫」と呼べるものにはなりません。地域の意向を無視した「勝手な餌やり」になるのがオチです。

自治体の要綱が3人と比較的少人数になっているのは、せっかく予算とって作った施策のハードルを上げてしまうと、誰にも利用されない駄策として消えるのが目に見えているから(と予想しています)。

自治会や地区等のとりまとめ団体が元からある

もともと母体がある方が地域猫活動に向いています。会費も集めていて、代表や会計がいる、自治会のような組織だと理想です。地域猫活動のためにゼロから団体を立ち上げることも想定されますが、その場合、猫の被害者の理解を得て参加してもらうことに多大な時間と労力を要します。「自治会でやる方向なら…」とある程度寄り添ってもらえる条件を用意しておきましょう。

方法

手順0 被害状況・意識調査と実施決定

多くの場合手順1からの方法が勧められています。手順0としてやることで地域猫活動の成果が格段に上がるので、紹介します。

地域住民全員にアンケート調査をします。猫の被害や不満はあれど、大声をあげる人は限られています。自治体に挙がる苦情件数は1であっても、わざわざ自治体にまで直接言う人はごくわずかです。表立ってはいない被害や不満、苦情を拾いましょう。いきなりアンケートなんて回答してくれるのかって?人間は不満があればここぞとばかりに回答しますよ。

地域住民アンケート

被害状況の把握と同時に、対策を希望するかを聞き取ります。

地域住民アンケート2

対策を希望するのであれば、回答者はどこまで協力してもらえるかも聞き取りましょう。おのずと次のA~Dに分類されます。また、費用の捻出についても聞き取ることが重要です。自治会費から予算をつけていいのか、地域猫活動のための協力金を出していただけるのか。

  • A 協力したいし、費用も出す
  • B できることがあるならやるけど、金は出したくない
  • C 金なら出すが、忙しいから活動はできない
  • D 何もしたくない

AとBの方には積極的に関わってもらいましょう。Bの中には自治会費からなら出してもいいという方も多いです。

Cの方は活動を理解してくれていると捉えていいでしょう。費用まで出してくれるため、必ず結果を出して報告しなければなりません。もちろん、Cの方だけに報告するわけではありませんが。

活動自体には賛成でも、Dである方も勿論いいます。猫の活動に限らず、地域の活動が大好きで積極的に運営に関わりたい人は限られています(笑)。それでも何年かに1度回ってくる役員をやっていたりします。猫の世話をする等、猫と直接接触する活動は猫好きさんたちに任せ、その他のことでも構わないので運営に携わってもらいましょう。

このアンケート調査である程度の管理スタッフや捻出できる金額がみえてきます。猫嫌いや、アレルギー、触れない人でも、会計や周知回覧板記事作成などの事務作業は可能です。猫好きさんは日々の管理に従事してもらいましょう。猫の被害者には、活動自体の監視役としての重要なポジションがあります。活動状況どうなってるんだ!と時には喝を入れたり、猫の遺棄に厳しい目を向けたり、不適切な管理を指摘したりです。むしろそういう人がいないと、地域猫活動ではなく愛護活動に傾いてしまいがちなため、必要な人材ともいえるかもしれません。

手順1 猫の状況調査

生息している猫の特徴、餌場、性格、どこにいることが多いか、いつからいるか等をできるだけ細かく把握しましょう。一覧表にして数も把握します。一覧表は地域住民に確認してもらうことが大切です。漏れのチェックだけでなく、実は誰かの飼い猫であればリストから削除します。これは最初の住民会議で確認してもいいでしょう。初期に把握していない猫は地域猫ではありませんあとから追加もできません。過不足ないように。

可能な限り、写真付きの地域猫リストを作成しましょう。特徴を言葉だけで表現し、複数人ですり合わせると重複や漏れの原因となります。

素人がスマホで急いで撮る写真には限界があります。野生動物調査で使うようなトレイルカメラの使用をおすすめします。なお、トレイルカメラの値段はピンキリ1~4万円で、質もピンキリです。安物買いの銭失いになりやすい商品なので、補償等はしっかり確認することをお勧めします。

手順2 住民説明会議の開催

手順0で把握した地域の状況と猫問題改善の期待度を発表します。そのうえで、役員で検討した地域猫活動の実施を最終決定をします。

活動費の出どころ、やるべきこと、その担当、目標などを説明します。相談窓口となる自治体の担当者、動物愛護推進員の紹介もここで行いましょう。

各担当も決めます。地域猫活動の団体長と副団長、会計担当、猫の世話担当は最低限必要です。

猫に触れない人、アレルギーだけど協力する意思のある人は会計や事務作業ならできます。猫の被害に悩む人は監視役に適任です。

最後に、参加できなかった人のため回覧板等での周知も徹底してください。この会議は複数回実施することが望ましいです。1回で数人しか集まらなくても、毎回違う人が出席してくれればそれだけ理解が進みます。手順2ではありますが、活動手順3以降に進んだときも、会議は定期的に継続すべきです。

手順3 ルール作り

餌の与え方、トイレの設置、困ったときの対応等のルールを決めましょう。ここでのルールは主に猫の世話をする際のルールです。

  • 餌やりの場所、時刻、担当者
  • トイレの設置場所、掃除頻度と時刻、担当者
  • ごみの処理方法
  • 活動中は腕章をつける
  • イレギュラーなことがあれば写真を撮る
  • 相談窓口を決定(猫に長けた動物愛護推進員、自治体職員、活動団体長)
  • 地域猫が負傷していた際の対応

猫愛護活動ではないので、治療はしないという決定もありえます。その場合もその旨しっかりルールに記載しましょう。

そのような猫を見た人(特に活動に協力的でなかったような人)がいきなりかわいそう!と声をあげはじめたりします。活動ルール上、そのような猫の治療はしないことに決めてあるし、予算もないので、あなたが動物病院に連れて行ってください、と話す必要があります。

いま上記の状況を想像してもらった人にはわかると思いますが、いくら人のための地域猫活動といえど、猫の福祉の優先順位を下げすぎると、非人道的なものになってしまいますので注意してください。精神衛生上、よくありません。

また、活動反対はだった人が病気の猫をみてかわいそうと感じ、治療してあげたいという気持ちをせっかく持ってくれても、それを却下することになります。協力者に変わるチャンスを逃すことになるのです。

このふたつの理由から、治療はしないという方向性はおすすめしません。

手順4 不妊去勢手術

全頭の不妊去勢手術と手術済みの印である耳カットが必須です。

一般的にはオスは右耳、メスは左耳の先端をV字にカットします。

V字カットは喧嘩傷と見分けがつかない場合もあり、先端を水平にカットする方法をとる場合もあります。

雌雄によりカットする耳の左右は、あまり意味を持たないので気にする必要もないという意見もあります(左右を間違えてカットしてしまうミスもあります…ごめんなさい)。ただし、自治体の要綱等で決まっている場合があるため、最初に要綱を熟読し、自治体職員に確認しましょう。

手術は可能な限り一気にやりましょう。数頭ずつやろうとしてはいけません。

抱き上げることができるくらいの猫は用手でキャリーケースに入れてください。そうでない猫は箱わなで捕獲することが多いです。最寄りの保健所や役所が貸してくれるケースもありますので、問い合わせてみてください。

鳥獣被害対策.comより引用

箱わなは捕獲器としてだけでなく、そのままキャリーケースにもなります。

作業者にとっても比較的安全性の高い罠のため重宝します。しかし、警戒心の薄い猫は何度も捕まってしまいます。他の猫が捕まる現場を見ていると、捕まっていない猫はどんどん警戒心を高めてしまいます。今日は3頭、来週も3頭と続けていくうちに、捕まる猫と捕まらない猫が二極化し、未手術の猫の捕獲難易度が高くなってしまいます。必ずできるだけ一気に、できるなら全頭一度に捕獲、手術をしましょう。

人慣れしているような猫は、この段階で里親に出す選択肢もあります。譲渡条件に「完全室内飼養」は必ず設けてください。

手順5 管理徹底と定期報告

ルールを徹底してください。特に猫の管理担当の猫好きさんは自分のやりたいようにやりがちです。

効率が悪かったり、都合が悪くなってもひとりの判断で勝手にルールを変えないようにしましょう。見慣れない猫がいても、発見者の一存で対応を決めないでください。

あくまで地域で管理している猫ですので、個人ではなく、役員に報告し、役員が相談して地域として方向性を決めましょう。変更する場合、猫被害を減らすことが目的であることを絶対に忘れないでください。猫を守るための活動ではありません。

また、活動報告を定期的に回覧板等で周知しましょう。猫の頭数の変化、死亡等が確認できているならその詳細、猫被害状況の変化、ルールの変更、担当者の変更、収支。

注意点

上記の順番を守りましょう。不妊去勢手術は段取りの最後に実施するものです。

手順4までを踏んでいるうちにどんどん増えてしまう!早く手術すべきだ!という気持ちはわかります。しかし、手順を踏まずに先に手術をすると地域猫活動は成り立ちません。手術を最初にしてしまうと、地域猫活動ありきの考えになってしまいがちです。

住民の理解が得られないのに地域猫活動と勘違いします。それは個人でやっている猫愛護活動にすぎません。

活動の評価

地域猫活動も目的に沿って、評価をしましょう。目的は、

  • 苦情や被害の減少
  • 猫問題の解決
  • 猫の減少

でした。苦情や被害の増減は、必ずアンケート調査をしてください。肌感覚で評価してはいけません。特に猫好きの方が評価をするとバイアスがかかります。

自治体職員はアンケート結果だけをみるのではなく、現場に足を運んで、地域の状況をみて、住民に話を聞いてください。何も解決できていない状態が続くと、諦めたことで苦情が減っていただけの恐れもあります。本当に解決へ向かっているのかを評価してください。

当初のアンケートでは活動自体に反対していた人の中から、参加を申し出たり、少し手伝ってくれたりする人が1人でも出てきたら、それは大きな意味を持ちます。

まとめ

ここまでしっかり読んだ人はわかると思いますが、地域猫活動は、猫愛護活動とはほど遠いものです。

猫好きさんが始めるきっかけを作ることはとても大切ですが、徹底した管理は猫好きさんだけでは実現しません。「地域住民の理解を得なければ、地域猫とは言わない」なんてことはよく耳にします。これも正解ですが、当院からは「猫嫌いな地域住民が取り組まなければ、地域猫は失敗する」ということも付けたしておきます。

FAQ

地域猫活動を始めるにあたって、もしくは活動中に迷った場合こちらをご覧ください。よくある質問、というか想定される問題に対する対処や考え方の一例を記載してあります。そのほか、質問がありましたらコメントまたはLINEにてどうぞ。

よくある質問と回答をまとめました

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