今回、日本動物福祉協会主催のRSPCAセミナー「生命尊重教育~こどもと命の授業~」に行ってきたのでそのレポートです。動物福祉協会は毎年RSPCAから講師を日本に呼んでセミナーを行っていますが、教育に焦点をあてたセミナーは今回が初めてでした。
本題の教育について触れる前に、基本的なRSPCAにおける動物福祉の考え方についてこの記事で簡単に解説したいと思います。
RSPCAとは
RSPCAとは、イギリス王立動物虐待防止協会(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)のことで、言わずとしれた世界最古の動物福祉団体です。
警察よりも歴史が古く、イギリスを中心として世界各国に支部を持ちます。
今回、来日してくれたのは国際部長のPaul Littlefairさんと教育の専門家であるDavid Cogganさん。とても愉快で楽しい講義を行ってくれました。
動物虐待の定義
動物虐待とは?
動物福祉とは?
これらについての考え方は人それぞれであり、捉え方も千差万別です。今回、いくつかの質問への回答でそのバラバラさを改めて実感しました。
いくつかの事例(警察犬、伴侶動物の飼育、実験動物、イルカショー、介助犬など)について
use > < misuse >< abuse
つまり利用、過剰利用、虐待の三段階に分けた場合、どこに該当するかという問いかけをされました。動物福祉に関心の高い今回の参加者たちであっても全員の意見が一致することはほとんどなかったです。
もちろん正解はないです。正解がないということを忘れてはなりません。しかし、その判断基準が重要であることも覚えておかなければなりません。
利用~虐待の判断基準
RSPCAが使用している判断基準は主に5つあります。
1. ニーズ
環境、食事、人との関わりなど動物種によって異なるニーズを持っています。まずはそれを考えることが最初の第一歩です。
セミナー内では、イグアナやミミズ、クモなどのニーズを列挙してみました。簡単にいえば、その種の衣食住をまず考えます。
例えば、生息環境。わたし個人的には人との関わりという点では大きく分けると3つに分かれるなと考えていました。
人の家庭が必要になる伴侶動物
手つかずの自然が必要な野生動物
そして二次的自然を必要とする生物
※二次的自然とは、人の手が加えられることによって維持される自然。
最近は二次自然にも注目されています。野生動物は人の手が加わらないほうがいい、というわけではない場合も少なくないということです。
2. 自然な生活
家畜化された種であっても野生動物時代のニーズが残っていることが多いです。
例えばブタは野生動物時代の名残である、土を鼻や口でほじり餌を探す行動をします。豚舎内では餌入れに入った餌を与えられていることが多いでしょうが、土をほじるという行動だけでもさせることで、自然な生活へ近づけることができます。
3. USE-ABUSEスケール
前述したように、その行為が人の生活を豊かにするための動物の有効利用とするのか、いきすぎた利用なのか、はたまた虐待にあたるのかを考慮します。
ぜひ、以下の事例について考えてみてください。
〈ブリーダーによる犬の繁殖〉
〈動物園〉
〈イルカショー〉
〈実験動物〉
〈乳牛からの搾乳〉
〈猫の飼育〉
〈多頭飼育〉
〈介助犬の利用〉
…いかがでしょうか。繰り返しますが、正解はありません。これだけで虐待かどうかを決めるものでもありません。ひとつのスケールです。
4. 天秤法
人へのベネフィットと動物への害を天秤にかける方法です。
それよって人にはどんなベネフィットがあるか。動物の苦痛はどの程度あるか。この二者を天秤にかけます。多少なりとも動物の苦痛は伴うかもしれないけど、人への貢献度が大きいなら許される行為でしょう。人の貢献度もあるが、動物の苦痛はとてつもなく大きいなら、それは不適とされます。
誰しも一度は「不妊去勢手術はかわいそうか?」という疑問に当たったことがあると思います。不妊手術という自然との矛盾はこの天秤法で評価するとわかりやすいです。
良い点:かわいい子供がみれる、繁殖するのが自然。
悪い点:過剰繁殖により飼いきれない、動物身体の負担、社会的実害
これらを天秤にかけると、結果的に不妊去勢手術をするほうが良いと判断されるケースがほとんどになります。
そもそも人間がかわいい子犬子猫を産ませたいと思っているのであって、犬や猫が産みたい!とは思っていないはずです。これは人間の気持ちを動物に投影、擬人化しており、よくない事例の代表です。
擬人化がよくないということについては、教育の部分で詳しく説明します。
5. 5つの領域
有名な5freedoms(5つの自由)から発展した考え方です。
・Behaviour(行動)
・Nutrition(食事)
・Environment(環境)
・Health(健康)
があり、これら4つの物理的な領域を満たすことで最後の
・Mental state(精神心理)
が満たされます。先の4つの物理的な領域はニーズと強くリンクすることにお気づきかと思います。
最後に
以上のように、動物の福祉や虐待を判断するにはある程度まとまった基準が必要になります。
評価基準はこれを用いることがわかりやすいですね。日本にはなかなか虐待の評価基準が浸透していないですが、おおいに参考にできるものでしょう。
より具体的な評価には科学的根拠を絡めながら判断してくことが必須です。近年は法獣医学も盛んに研究されています。どんどん新しい文献が出てくるのを期待しましょう。
この基本的な知識のうえで、子どもへの教育については次の記事にまとめます。
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