2021年環境省が出したガイドライン「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」を簡単に解説していきたいと思います。
120頁以上に及ぶ大作で、厚生労働省と密に連携して作りこまれています。
大作すぎて読むのが嫌になると思いますので、当院のコメントも添えて解説します。
当院の思い
当院やまがた不妊去勢クリニックは、このガイドラインに沿って多頭飼育の問題解決を目標にしています。
競うわけではありませんが、院長自身も約10年前の保健所勤務時代、つまり新人のときから社会福祉部局との連携は提唱していました。
その時は、縦割りが故に福祉部局に協力依頼することすら叶わなかったのですが、そのイメージを言語化して数々の実態分析とともにガイドラインにしてくれました。
多頭飼育問題が生じる社会的背景
なによりもこの図が多頭飼育問題の背景を把握するのに、とてもまとまっていてわかりやすいです。
本当にその方その方、ケースバイケースで様々な背景があります。
これらの事象は、ひとつということはむしろ少なく、動物問題でいえば「高齢化×対人関係×生活困窮×認知機能低下」などが典型的な問題です。
川上の問題ですら担当部局が複数にわたります。縦割り行政では対応しきれず、地域包括や重層的支援体制整備事業という形で国が対策を提示しています。
川下の問題として表れる形のひとつに動物問題があり、川上から関わってきた福祉従事者さんは、川下の問題解決までは到底できません。
結果、川下の問題はことが大きくなるまで放置されがちなのです。
飼い主が持つ要素及びその特徴
- 不衛生
- 自立困難
- 貧困
- 暴力
- 固執
- サービス拒否
- 依存
- (孤立)
上の7つがアンケートで浮かび上がってきた特徴で、孤立も設問になかっただけであるかもしれないと記載されています。
孤立は原因にもなるし、結果として生じることも考えられますが、個人的にはどちらかというと結果として孤立していることが多いように感じます。
なので、動物問題解決の目標は、孤立からの脱却とも言えます。
サービス拒否のサービスとは、医療や社会福祉サービスのことです。
「いいよ、病院なんて行かなくて。大丈夫!」という方がいます。行きたくない理由に動物を使われることもあります。
暴力は、身体的なものだけでなく、言葉の暴力も含まれます。
行政マンには反抗的だったり、動物の話をすると余計なお世話と言わんばかりに不機嫌になったりするケースです。
自分は動物をちゃんと管理できていない自覚がある証拠とも言えます。
保健所が入れば、殺しに来たのか!と言いますし、社会福祉従事者が動物のことを聞けば、素人が何を言っているんだという反論をされます。
しかし、動物のことを思ってくれる人、つまり動物病院の先生が話を聞くことは印象が異なります。
中には、動物病院の先生には動物の話だけではなく色々お話をしてくれる方もいます。
実はそれが福祉従事者の知りたい情報だったり、支援に有意義な情報だったりします。
当院は、獣医療だけで貢献できるとは考えていません。
不妊手術をするもっともっと前から相談していただいて、「動物病院の先生」をエサとして支援先とのアイスブレイクに使ってもらいたいんです。
飼い主が個体数を増加させてしまう理由
主に3つです。
- 判断力の不足
- 経済的困窮
- 信念・感情
こんなに増えると思わなかった、去勢手術をするお金がない、去勢手術はかわいそう。
主にというより、これ以外はほぼないと思います。どれも解決のハードルになるものです。
判断力不足は、単に知識がなく、「こんなに増えると思っていなかった」という場合もありますが、認知症が原因になる場合もあります。
経済的困窮は、本当に困窮している場合もありますが、去勢手術は高価で1頭何万円もするという認識により手術代を払えないと思ってしまっている場合もあります。1万円以下ですと案内すると、それなら出せるという方も少なくありません。
かわいそうという信念は、時間をかけて説明説得しなければなりません。
どの理由も想定して、解決への道を示すのが当院の役割だと思っています。
多頭飼育の現状
多頭飼育崩壊!というと、どうしても何十頭もいることをイメージしてしまいますが、行政に苦情のあがってくる多頭飼育の半数は10頭未満です。
意外ですよね。
これをみると、多くの自治体が条例で定めている多頭飼育届の数を10頭じゃ多いのではないかという意見があがります。これについては、また別途解説することにします。
なにが言いたいかというと、数頭いる時点で多頭飼育のリスクは十分にあるということです。
苦情の多くは悪臭が原因ですが、苦情ということは、近隣住民からの声です。
でもその前に苦情をいうことはありませんが、福祉的支援で訪問している方がいます。
介護やケアマネが代表的です。民生委員さんかもしれません。親族のこともあります。
数頭いるとわかった時点で相談をしてください。
どんな環境ならリスクがあると判断するかは、次回にしましょう。
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