今回は、鳥取市が2026年4月からスタートさせた「保護猫預かり制度」について取り上げます。行政の新しい取り組みとして非常に注目しているので、制度の内容とともに、現場目線での感想や課題意識もあわせてお伝えします。
https://www.nnn.co.jp/articles/-/748774
- 市内在住の60歳以上を対象
- 市が収容した成猫を預かってもらう
- 年齢を理由に猫を飼えなかった高齢者らに猫と暮らす
- 猫の所有権は市に残し、預かり主が入院や病気などで飼育できなくなった場合は再び引き取る
- 餌代や医療費は預かり主の負担
- 飼育状況を定期的に確認することで、預かり主の見守りも兼ねる
ツキネコ北海道の「永年預かり制度」がルーツ
実はこの制度、北海道で活動する保護猫団体・ツキネコ北海道が先行して取り組んでいる「永年預かり制度」を参考にしたものと思われます。
「譲渡ではなく預かり」という考え方はツキネコ北海道が先駆けており、年齢を理由に猫を迎えることを諦めていた高齢者が猫と暮らせるようになる仕組みとして、注目を集めてきました。鳥取市がそれを行政レベルで取り入れた、という流れです。
「返ってきすぎたら?」という心配は、実はほぼ杞憂
こういった制度を聞くと必ず出てくる懸念が、「預かり主が飼えなくなって、どんどん猫が戻ってきたら施設のキャパがパンクするのでは?」というものです。
しかし、2年前にツキネコ北海道からお話を伺ったところ、永年預かりの実績約400匹に対して返ってきたのはわずか15匹のみとのことでした。
実際に猫と暮らし始めると、それだけ深い絆が生まれます。「どうしても無理」という状況にならない限り、戻す選択をする方はほとんどいないのが現実です。「返ってきたらどうしよう」という心配に縛られすぎて制度を始められないのは、非常にもったいないと感じます。
制度のメリット:高齢者・猫・行政、三方良し
この制度には複数のメリットがあります。
高齢者にとっては、年齢を理由に諦めていた「猫と暮らす」が選択できます。孤独感の軽減やQOL向上にもつながるでしょう。
行政・保護団体にとっては、保護猫の受け入れ先が広がります。収容数の限界を抱える施設にとって、これは大きな前進です。
そしてニュース記事にも書かれていた点として、定期的な飼育状況の確認を通じた「預かり主の見守り」 も兼ねるとされています。ひとり暮らしの高齢者が増える中、これは福祉的な観点からも意義があります。
課題として気になる点:「見守り」の実効性・医療判断のズレ・責任の所在
一方で、現場目線で気になる点もあります。
まず、「見守り」をどの程度の頻度・深度で行うかという問題です。
電話やメールでの確認がメインになるとは思いますが、それで本当に「見守り」と言えるのか。実際に訪問してこそ状況が分かる面もあります。しかし行政は慢性的な人手不足であり、定期訪問を持続的に行うのは現実的に難しい面もあるでしょう。
「見守りも兼ねる」とうたうなら、そこまでしっかりやる必要があると思います。逆に、そこまで言わずに「受け入れ先を広げる制度」として割り切る方が、現実的かもしれません。
もう一つは、医療に関する判断のズレです。
エサ代・医療費は預かり主負担になるため、どの程度の医療をかけるかは実質的に預かり主の裁量になります。しかし所有権は市にある以上、極端なケースでは市側と意見が食い違う可能性もゼロではありません。
もう一つ、医療判断のズレと同様に気になるのが、逸走事故が起きたときの責任の所在です。たとえば猫が逃げ出してしまった場合、あるいはそれによって交通事故を起こしてしまった場合、その責任は市にあるのか、預かり主にあるのか。所有権が市にある以上、この点は曖昧にできない問題です。
もちろん、これらもレアケースです。
実際に起こってから都度判断していく、という運用になるとは思います。ただ、「こういった事態が起きた時にどう対処するか」というルールをあらかじめ整理しておくことは、制度を長く安定して続けるためにも重要ではないでしょうか。
こうした細かい懸念をすべてクリアしてから動こうとすると、いつまでも制度は始められません。先進事例を作るためには、ある程度の思い切りも必要です。大切なのは、始めたあとに問題が起きた時の対処をどう設計するか、だと思っています。
とはいえ、こういったケースは制度を運用しながら答えを見つけていくしかありません。ツキネコ北海道の経験が示すように、実際には深刻な問題になることは少ないと思っています。
応援しています、そして広がってほしい
メリットとデメリットを天秤にかければ、メリットが大きく上回ると私は感じています。
鳥取市がこうした先進的な取り組みを始めてくれたことは素晴らしいことですし、心から応援しています。地域の規模や環境によって最適な運用のかたちは変わりますが、こういった制度が全国に広がっていくことを願っています。
また、行政には積極的な情報公開を期待したいところです。「どれくらい戻ってくるか」「見守りはどう機能しているか」といった実績データが発信されれば、他の自治体が追随するための大きな後押しになるはずです。
気になる点:預かりながら里親を探すのか、それとも終生?
もう一つ、制度の設計として気になっていることがあります。
預かり主に預けている間も、里親の募集は続けるのかという点です。
もし里親を探し続けるなら、この制度は「高齢者を活用した一時預かり」という性格になります。より若い、あるいは猫を最後まで看取れる可能性が高い人に譲渡できれば、動物にとっては理想的です。
一方、里親を探さないとすれば、基本的には「預かり主にそのまま終生飼育してもらう」ことを期待した制度になります。
どちらの設計なのかによって、制度の意味合いはかなり変わってきます。
ちなみに、私たちのクリニックでも一時預かり制度を運用していますが、一時預かりを心理的にできない方というのが一定数いらっしゃいます。「制度としてはいいと思う。でも自分にはできない」という方の理由で最も多いのが、里親が見つかって手放さなければいけない瞬間が来ることへの辛さです。情が移っているからこそ、突然別れが来ることが耐えられない、ということですね。
鳥取市の制度が「預かりながら里親も探す」という方向性であれば、同じように「それなら参加できない」という方も出てくるかもしれません。その辺りをどう設計・説明しているかは、今後注目していきたいと思っています。
追伸:元行政マンとしての細かい心配
最後に、少しマニアックな話を一つ。
動物愛護センターは毎年、環境省に収容・処遇の実績を報告しています。収容頭数・譲渡数・殺処分数・自然死数——これらの数字がきれいに整合するかたちで集計・公表されており、多くの方が目にしているデータです。
ここで気になるのが、預かり制度で預けた動物をどう集計するかという問題です。
所有権は市が持ったままなので、おそらく「まだ譲渡前・センター管理中」の動物としてカウントされていくことになると思います。しかしそうなると、センターの在籍数が実際よりもかなり大きな数字になってしまうという矛盾が生じます。
これは制度の是非とは別の、報告・管理上の話です。実態に即した集計方法を別途整理する必要があるはずで、その辺りの運用をどう設計するかも注目しています。
……完全に元行政マンの職業病的な心配ですが(笑)
やまがた不妊去勢クリニックでも、永年預かり制度の運用や、福祉との連携による同行訪問などを通じて、高齢者とペットの共生を支援しています。ペットと高齢者の問題について関心のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。






この記事へのコメントはありません。