当院は人福祉現場に猫問題の発生源があると考え、それに対処するため活動しています。
しかし、単なるスぺイクリニックとして受ける相談の中にも野良猫の発生源があると感じています。
「家で産んでいたので、保護した。子猫は里親が見つかったから譲渡した。親猫は避妊手術をしてほしい。」
このような相談がよくあります。
当院だけでなく、保護団体さんにもよくある相談だと思います。保護団体さんの場合、里親探しも手伝って欲しいという段階から来る方が多いかもしれませんが。
心意気は尊敬しますのでできることをやって欲しいのですが、この行為に実はふたつの問題が隠れている可能性があります。
いずれも猫問題につながる問題です。
社会性の欠如した猫が生まれる
猫の生態に詳しい人でなく、一般的な方であれば、子猫の社会化にまで考えが及んでいないことが多いです。
保護してからできるだけ早く、できるだけ可愛いうちに里親を探そうとすることで、2か月にも満たない子猫を親から離して、譲渡してしまいます。
これは全くオススメできません。
動物愛護管理法により、犬猫は58日齢になるまで販売が禁止されています。
親兄弟から早く引き離してしまうことで、犬や猫の社会化の機会が奪われ、時には噛み癖があったり、他の犬猫と相いれない犬猫に育つ可能性があるため、禁止されています。
平成 27 年度犬猫幼齢個体を親兄弟から引き離す理想的な時期に関する調査手法等検討業務報告書
もちろん、保護動物の譲渡は販売ではないので、58日齢未満で譲渡しても罰せられることはありません。
ただ、犬猫とその飼い主のことを思って定められている法規制です。販売か譲渡かは、犬猫や飼い主には関係ありません。
譲渡であっても、約2か月齢になるまでは親兄弟と同居させてあげましょう。
もっとひどい場合、親が授乳中にも関わらず子猫を親から奪い取ってしまう人もいます。論外です。
自分でおっぱいをあげたい母性本能はいいですが、そこは我慢しましょう。
新たな猫問題の発生
里親を見つけることはとても大変なことです。
しかし、ひょんなことから保護した人は、知人などに声をかけていとも簡単に里親を見つけるケースも少なくありません。
そのような場合、子猫の日齢、健康状態などを把握せずに譲渡していると感じることが多々あります。
当然、里親になる人もそこまで考えが及ばず、簡単に「かわいいから」引き受けています。
保護活動の経験者なら当然と考える項目をノーチェック、未実施で譲渡が成立しています。
例えば、ノミ、マダニはいないか、食欲はあるか、何を食べて飲んでいるか、下痢はしていないか、風邪症状はないか、毎日体重は増えているか、月齢はどれくらいか、猫エイズ白血病は陰性か、パルボウイルスの可能性はどれくらい低いか……
月齢もわからなければ社会化もクソもありませんし、譲渡先でパルボウイルスで先住猫含めて全滅もありえます。
社会化のされていない子の場合、こんな子に育つと思わなかったと感じる日も近いかもしれません。その結果、最初は室内で飼えてたけど、外に出すようになったという例もあります。
去勢手術も口約束だけでも結んでいればまだいい方で、去勢の話も一切せずに譲渡していたり。
未去勢で外飼いすらありえます。
結果、譲渡先でまた野良猫問題が発生します。
未去勢個体の譲渡
猫は特に、不妊化してから譲渡することを徹底して欲しいです。
しかし、子猫で譲渡したいけど、まだ手術ができないサイズということもあります。
どのようにすべきか?ふたつの案を紹介します。
ここからは素人譲渡活動に関わらず、参考にしていただきたい内容となっています。
早期手術
猫は思っている以上に早い月齢で避妊去勢手術が可能です。
当院は3か月齢になれば手術しますし、中には2か月齢でやる病院もあります。
幼齢個体の手術による悪影響は、いまのところ報告されていません。
一方で、初めての発情は4か月齢程度で来て、6か月齢程度で出産します。
つまり、2~4か月齢での手術を推奨します。
先に述べた、2か月齢までは親兄弟と離さないことと併せて考えると、譲渡前は手術できるほど育っていなかったということは、ほぼあり得ないことになります。
手術チケット
とはいえ2か月齢より3~4か月齢のほうが状態は安定してますし、手術も安心してできます。
オスの場合、2か月齢ではまだ睾丸が降りきっていないこともありますし、育ちの悪い子はもっと育ってから手術したほうがいいと判断することもあります。
そのような場合、手術チケットの発行がいいと思います。
里親になった人が連れてくれば、チケットを使って手術ができますよという制度です。
ドイツのティアハイムでは、このような制度を設けていることもあります。
当然、譲渡金に避妊去勢手術代が含まれていて、手術に連れて行かないと損をするようになっています。
いくら去勢手術をすることを譲渡誓約書に入れても守らない人がいますが、人間、損はしたくないという心理が働きます。
まとめ
野良猫の里親を見つけることは、とても応援したい行為である一方で、別の場所での猫問題発生に加担していることがあることはイメージできたと思います。
これを防ぐ方法は、各ケースでしつこいくらいに適正譲渡について普及するしかありません。
「子猫の里親が見つかりました!」と喜んで報告してくれる方に対して、
「で?その子猫ワクチン打った?去勢は?」と聞くのはお互いにかなりストレスを感じることです。
しかし、私たちプロはやらばければならないと思っています。
骨の折れる作業ですが、一歩ずつ、一歩ずつですね。
子猫保護のフローチャートも作ろうかしら。
この記事へのコメントはありません。