公務員獣医師不足は慢性的な問題です。
今回、石川県の北國新聞が改めて記事にしたことで、Xで少し話題になりました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/dd57449842facf1512b5810bf0ef813121a8c819
令和6年度は募集人数11人に対し、2人しか入庁しなかったとのこと。
さらに、獣医師として石川県に就職してもらうために、高校生や大学生に修学資金を用意もしましたが、それも実らずという記事です。
(北國新聞の記事内では県が修学資金の制度を用意したように読めますが、実際は石川県獣医師会のようです)
今回は、地方自治体の獣医師採用難についてつづります。
離職率はまた全然違う視点で考えなければならないと思いますので別の機会にします。
数字で詰めろ
公務員獣医師の仕事内容が云々、待遇が云々という詳細を語る以前に、獣医師の人数という数字を詰めていきます。
まずはじめに、毎年1000人の獣医師が新たに誕生しています。

次に、公務員として働く獣医師の割合です。

獣医師のうち23%が公務員として活躍しています。
公務員獣医師の採用はもちろん新卒だけではないのですが、今回は単純化するために新卒(国試浪人で新しく獣医師になった人含む)で採用人数を確保するものと仮定します。
記事の中にある奨学金制度も新卒採用を目的に作られていると思いますので。
地方自治体は何人雇うことができるのか
公務員は国家公務員と地方公務員があります。国家公務員は毎年数名程度なので、無視します。
47都道府県が公務員獣医師を確保したいと考えています。
政令市20、中核市62も含めるともっと多くなるのですが、募集人数が若干名だったりゼロのこともあるので一旦横に置いておきます。
この前提で計算すると、1000人の23%、230人を47都道府県で取り合うことになります。
この230人を均等に振り分けることができれば、どの都道府県も5人弱確保することになります。
まずこの時点で11人採用することは非現実的なことは明らかです。公務員になる新卒者が均等に分かれたとしてもですよ。
募集人数はその人数が採用できると思って決めているわけではないのですが、それにしても地方自治体がどう頑張っても募集人数を満たすことはできない現実が見えます。

さらに一旦無視した政令市中核市が全部で82あります。それぞれが0.5人雇うとしたら40人取られ、残り190人。
人気どころの東京都は合格者が毎年10-15人、千葉県10人で170人。
北海道が何人採れてるかパッとわからなかったのですが、募集人数は100人です。北海道に実際に入庁している人数を10人程度だと仮定すると、残り160人。
この160人を残りの44府県で分けることになります。
その場合、各府県で期待できる人数は3.6人です。
当然田舎ほど希望者は少ないため、期待値以上の採用はとても困難です。
結論、新卒獣医師は最大で3人程度しか採用できません。
期待できる最大値が3人です。
修学資金制度は無意味
慢性的な公務員獣医師不足問題を見る際、獣医はいるけど我が自治体を希望してくれないみたいな雰囲気で語っていませんか?
人はいるけど、うちの自治体で働いてくれない的な。
だから、待遇改善して獣医師を呼ぼうと考えてしまうのでしょう。
特に修学資金制度は新卒採用を目的としたものだと思います。
しかし、こうやって数字を少し意識すれば、そもそもあなたの自治体を希望する可能性のある新卒獣医師自体が、これ以上いないことがわかります。
人がいないなら、待遇改善は効果的ではありません。
魚が3匹しかいない池で、いくらいいエサを使ってもそれ以上は釣れません。そこをまず受け入れましょう。
3匹しかいない池で2匹釣り上げている石川県は、十分頑張っています。
勿論、隣の県に行きそうな人を自分の県に引っ張るために、修学資金制度を用意しているのだと思います。
獣医師の奪い合いですからね。公務員になろうと考えている人に対して、隣の県よりいい待遇を提示すれば効果的かもしれません。
ただ根本的に、縁もゆかりもない田舎の自治体の公務員をやる理由がありません。
石川県の新聞記事だったので、石川県を例に出させてもらいますが、石川県を就職先に検討しているのは、せいぜい北陸3県出身者です。
公務員希望の新卒獣医師230人の中に北陸3県出身者は何人いるのでしょうか?
1人もいないかもしれません。
いても1人か2人。ということは、やはりもう充分期待値どおりの採用できているということです。
給与がいい、奨学金があるなどの優遇で人を安定して取ることを目標にするなら、極端な話、給与は隣の県の2倍ださないと来ないと思っています。
石川県の初任給45万円と聞けば、関東出身の新卒獣医師も行きたがるかもしれません。
でもそれは無理でしょう?
待遇がいいという売り文句は魅力的ではないのです。
まして国家資格をもつ、特に職には困らないであろう人たちですよ。魅力的に見えません。
繰り返しますが、2人採用できている石川県は十分だと思います。0人の可能性すらありますから。
修学資金制度の是非
さらに、個人的な意見ですが、そもそも未来ある若者の就職先をあらかじめ決めつけるような制度は好きではありません。
大学時代は多くを学び、様々な活躍の幅を知り、希望した進路に進むために勉強するためにあるべきです。その未来を奪いかねないからです。
生まれた時から結婚相手が決まってるみたいな、そんな悪しき貴族文化的な香りがするのです…
まとめ
修学資金を援助する制度や職員の待遇を売りにしても、獣医師は採用できないことはわかりました。
そんなことは他の自治体の失敗例がいくらでもあるにも関わらず、周りを見まくる公務員がなぜ周りの失敗から学ばないのかは以前も記事にしているところです。
今回は失敗する理由を数字から考えました。
次回以降で公務員獣医師そのものの仕事や中途採用への期待について解説していきます。
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