本当に申し訳ありませんが、当院は原則動物を引き取りません。
福祉事業者への挨拶周りの際や、当院の存在を知っていただいた方から一番多い要望は「動物を引き取って欲しい」であることはまぎれもない事実です。
「相談してね」と挨拶して周っていながら、それでも引取り依頼は断っています。
その理由は主に3つ+αあります。
- 問題は解決しない
- キャパ問題
- リソースは有限
そして、+αで「持続可能性」です。
厳しい内容になっていますが、これが現実です。
一旦飲み込んでいただき、ゆっくりでいいから協働して解決したいので是非ご一読をお願いいたします。
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問題は解決しない
最大の理由はこれです。
引取相談のほとんどは当院が動物を引き取ったところで問題は解決しないケースだからです。
例えば、外飼い猫がいて入院ができないので猫を引き取って欲しいという相談。
当院がその相談に応じて猫たちを捕まえて、引き取り、飼い主は入院できたとします。それでも次のふたつの課題が残ります。
- 捕まらなかった猫の今後の管理
- 退院後にまた猫を集める可能性
1は猫の問題、環境問題、そして人の問題の三つとも発生します。
残された猫はエサをもらえなくなり、不安定な生活を強いられます。
近くにエサをもらえる場所があればそこで生きることができるかもしれません。その場合、外猫問題は引き続き存在し、増大し続けることになります。外猫問題が右から左に移っただけです。
エサをもらえる場所がなければ野生動物を食べる必要があります。
外猫問題は環境問題であり、当院は外猫を減らすという目的もあるため、苦労して活動した結果がこれではなんの意味もありません。
そして、猫がいるから入院できないという飼い主さんは、取り残された猫が心配だから入院できないのですよね?全部が捕まらなかった場合、その心配は解消されません。
2は重要な問題です。今いる猫がすべて無事保護できて引き取ったとしても、飼い主が退院後に再度猫を集めてしまうケースです。
これは保健所勤務や動物保護活動の経験が長い方のほとんどが頷くのですが、「わたしたちが今までやったことはなんだったの」という状況になります。
はっきり言いますが、このような猫を集めたり増やしてしまう飼い主は、猫集めを「絶対」繰り返します。
つまり、動物の引取りがただの臭いものに蓋施策でしかなくなってしまうのです。苦労して、お金もかけてやった保護がすべて無駄。
こうなるのはわかっているので、動物を引き取ったところで意味がないという結論になってしまうのです。
期待していた方は申し訳ありませんが、これが現実です。
猫の例を挙げましたが、ほとんどの場合で動物を引き取るだけでは問題解決はしません。
問題として見えている部分が動物なだけであって、いやむしろ動物を原因に仕立て上げられているだけであって、その背景に様々な問題があることは、福祉従事者ならわかっているはずです。
その他の問題も並行して対応しなければ、動物がいなくなったところで自体は変わらないのです。
キャパシティ問題
次に引取りをした場合に発生する問題です。
動物を収容するキャパシティは無限ではありません。もし当院が施設を用意してもすぐに満員になることは目に見えています。
なぜなら、どの保護団体もそうなっているからです。
つまり、紹介できる保護団体もありません。
これも引き取らない理由のひとつです。
リソースは有限
施設のキャパだけではありません。
保護した動物を管理し、治療し、里親につなげるためのリソース(人、モノ、金)はどこから出てくるのでしょうか。
ちなみに、保護から譲渡までにかかる費用についてはこちらで触れています。
多くの保護団体は寄付を募り、自腹を切り、それでもなんとか動物を助けることができるならという気持ちでやっています。
そして多くの団体は限界です。この点は動物保護界隈も変わらなければならない点ですが…。
動物を救いたいという気持ちを、都合のいいように利用することはできません。
動物を保護してくれる人は、行政や福祉事業者の都合のいい下請けではありませんので、その点はご留意を。
どうすべきか
このような理由で当院は原則引き取りませんし、引き取ってくれる保護団体も紹介していません。
ではどうすべきかについては「早期相談」としか言えません。早期相談の重要性は前回の記事や下の記事にまとまっています。
相談があり、当院が入って状況を整理すると、実は必要なのは動物をそこからいなくすることではなく、違うことだったりします。
とても難しい判別であることは確かですが、引き取っても変わらないということは明確にわかります。そのため、ケースに合わせた提案をするのが、当院の仕事です。
一時預かり制度
ただ、動物を引き取ったら解決するケースも少なからずあります。
あるのは事実なので、当院も動物を引き取れるような体制を整えています。
そのひとつとして一時預かり制度があります。
近年、保護活動の世界的なトレンドは施設収容でなく、一般家庭での預かりのようです。
人と動物、双方よしの制度です。
決しておしつけることはありません。登録しておいて、無理のない範囲で預かってもらえればいい制度になっていますので、是非ご登録ください。
これが動物の専門家サイドである当院の考える動物保護の在り方です。
持続可能性については別記事にしていますので、興味がある方はご一読を。かなり重要な視点だと思っています。
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