多頭飼育予備軍が「助けてください」と自分から手を挙げてくれたら、どれだけ早期に介入できることか。
そんな妄想をしたことはありませんか。
私はありませんでした。
正直に言えば、「そんなこと、あるわけがない」と思っていました。
ところが最近、それに近いケースに気がついたのです。
今回はその話です。
正直、ひどい相談
当院のようなクリニックを営んでいると、驚くような相談が来ることは珍しくありません。
ただ、これが続くと、さすがに頭を抱えます。
「多頭飼育崩壊寸前のお宅から生後半年のメス猫3匹を保護しました。今は1匹分しか手術金額を用意できません。」
「外の猫を徐々に保護しています。今、家の中と外いずれにもオス・メスが数匹ずついます。お金がないので、中にいる生後3か月のオス3匹を手術したいです。」
気持ちだけでは、動物は守れない
動物保護は、動物を思う気持ちがなければできません。
その気持ちは本当に大切ですし、尊重されるべきものです。
ただし、それだけでは足りません。
命を預かる行為です。最低限の知識、あるいは専門家の助言に耳を傾ける姿勢が必要です。
正直に言えば、安価で手術を提供していると、こうした無理のある相談が来やすくなるのも事実です。
それでも、サポートは可能だった
ただし、冒頭のような相談であっても、
こちらの助言に耳を傾けてくれるのであれば、サポートはできます。
私は決して高いハードルを課しているつもりはありません。
それでも「それは無理」「できない」と拒まれてしまうと、
「保護する資格があるのだろうか」と思ってしまうのも本音です。
具体例①
最初の相談には続きがありました。
「1匹が発情したので、発情が落ち着いたらその子の手術をお願いします。」
私の助言はこうでした。
『発情期の手術を避けたいのであれば、今発情していない子を先に手術するのはどうでしょうか。初回発情前の手術は、将来の特定疾患の予防にもつながります。』
この助言はいったん受け取ってもらえたようでしたが、
結局、その後連絡は途絶えました。
具体例②
次の相談では、さらに明白な優先順位の問題がありました。
「中にいる生後3か月のオス3匹を手術したい」
専門知識がなくても、屋内の3か月齢オス猫の手術優先度が低いことは分かるはずです。
私の助言はこうです。
『まずは外の猫4匹を一気に手術すべきです。中はオス・メスを分ければ対応できます。外の方が妊娠リスクが高い。予算が限られる中で、結果的に一番安く、頭数管理に成功しやすい方法を提案しています。』
返ってきたのは、
- 「中の猫をオスメス分けるのは難しい」
- 「外の猫の捕獲は仕事が忙しくてできない」
という返答でした。
結果として、中の猫から手術することになりました。
……なんでやねん。
ここからが本題です
ここまで書くと、愚痴のように聞こえるかもしれません。
しかし、私が本当に言いたいのはここからです。
こうした依頼に、安価で応じたくない気持ちはあります。
「もっと覚悟と準備をしてから来てほしい」と思うのも本音です。
それでも、当院は相談に乗るしかないのです。
なぜなら、この人たちこそが
多頭飼育崩壊や野良猫問題の火種だからです。
ここで突っぱねれば、他院でも手術されず、数週間後に繁殖し、1年後には確実に問題化します。
逆転の発想
見方を変えれば、こうも言えます。
「私は将来、多頭飼育崩壊を起こしかねない人間です。だから今、助けてください。」
そう言って、超早期に相談してきてくれたとも捉えられるのです。
私は日頃から「早期相談」「未然防止が一番大切」と発信しています。
この相談を、見逃すわけにはいきません。
褒めるべきなのだと思う
おそらく相談者は、
「多頭飼育から猫を救出しました」
と、少なからず【良いことをした】気持ちで来ているはずです。
内心では色々思うことがあっても、そこはやはり、まず褒めるべきなのでしょう。
福祉の現場では、私は自然とそれができます。信頼関係構築を最優先にできるからです。
それなのに、個人からの手術依頼になると、私はつい「指導」してしまう。
まだその人に、「ちゃんとできるようになってほしい」と期待してしまっているのかもしれません。
私もまだまだです。
まとめ
今回紹介したような相談は、専門家の目から見ればちぐはぐで、正直うんざりする内容です。
知識も準備も足りず、こちらの助言も十分に受け取ってもらえない。「それは違う」「順番が違う」と言いたくなる場面ばかりです。
しかし、冷静に考えると、これらはすべてまだ取り返しがつく段階での相談でした。
すでに数十頭になり、行政介入や強制措置が必要になってからでは、選択肢は一気に狭まり、誰も幸せになれません。
その一歩手前で、しかも本人なりに「何とかしよう」と動き、専門家のもとにたどり着いた。これ自体は、評価すべき行動です。
多頭飼育問題や野良猫問題は、「悪意のある加害者」が突然現れて起こるわけではありません。多くは、善意はあるが知識・余力・支援が足りない人が、誰にも相談できないまま抱え込んだ結果として生じます。
そう考えると、一見ふざけて見える依頼や、こちらを消耗させる相談こそが、本当の意味での早期相談なのかもしれません。
私自身、つい「指導」してしまうことがあります。期待があるからこそ、正しさを求めてしまう。それが必ずしも最善とは限らないことを、近頃改めて考えさせられました。
多頭飼育崩壊を防ぐために本当に必要なのは、完璧な飼い主を増やすことではなく、不完全な段階で手を挙げられる環境を残しておくこと。
その「受け皿」であり続ける覚悟が、専門家である私たちにも問われているのだと思います。






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