保護犬・保護猫の譲渡活動を行っていると、必ず向き合うことになるのが「譲渡条件」の話です。今日は、その中でも特に私自身がずっと引っかかっている、譲渡後の報告義務について、正直な気持ちをお話ししたいと思います。
正直に言うと、今回の話は理解されにくい内容だと思っています。特に譲渡活動をされている方からは、「その考え方は理解できない」というご意見の方が多いだろうと予測しています。それを承知の上で、あえてお話ししたいと思います。
なぜうちの譲渡条件は「あえて」緩めなのか
以前からお伝えしている通り、当院の譲渡条件は比較的緩めに設定しています。これは意図的にそうしているものです。
理由はシンプルで、条件を厳しくしすぎることで、新しい飼い主になろうとする気持ちそのものを諦めさせてしまいたくないからです。多くの団体は「かわいそうな思いをした動物たちに、二度と同じ思いをさせたくない」という気持ちから、厳しい条件を設けています。その考え方自体は決して間違っていません。
大切なのは、団体ごとに条件の厳しさにグラデーションがあることだと思っています。すごく厳しい団体から、すごく緩い団体まで。どれが正解というものではなく、それぞれの団体が置かれている状況や思いを反映した結果だと考えています。
譲渡後の「定期報告義務」に感じる違和感
ただし、条件の厳しさとは別に、私がどうしても気になっているのが「譲渡した後」の話です。
多くの団体では、譲渡後も定期的な報告を義務付けています。例えば「譲渡後3か月で1回報告してください」「1年後にも報告してください」「毎年報告してください」といった形です。逃げてしまった、といった緊急時の連絡は当然として、こうした定期報告を制度化している団体は少なくありません。
これ自体、動物がちゃんと幸せに暮らせているか気になるという気持ちから来ているものですし、その気持ちは十分に理解できます。それでも私は、ここに少し気持ち悪さを感じてしまうのです。
すでに所有権が自分のものではなくなった動物に対して、新しい飼い主さんに義務を課すこと。正確な言葉が見つからないのですが、なんとなくモヤモヤします。この業界ではもう「新しい飼い主の当然の義務」として常識化しているのかもしれませんが、私にはどこか、おせっかいに思えてしまうのです。
実際にあった、動物が逃げてしまったという報告
なぜモヤモヤするのか、自分なりに考えてみました。
もし自分が譲渡を受ける側の人間だったとして、家族構成や留守にする時間、先住動物の有無、家族の同意の有無など、いろいろなことを聞かれるのは構わないと思うのです。厳しい団体では年収まで聞かれるケースもあると聞きますが、それも含めて審査の一環として納得できます。
でも、それ以上に嫌なのは、譲渡を受けた後、何かあるたびに報告しなければならないという義務そのものです。
実際、こんなことがありました。うちから譲渡した動物が逃げてしまった、という報告をいただいたのです。うちはそれを条件にも義務にもしていません。それでも、その方はわざわざ報告してくださいました。もちろんありがたいことです。
ただ、少し冷たく聞こえるかもしれませんが、すでにその人の手に渡った動物である以上、ある意味では私の知ったことではないとも思うのです。これがまだトライアル期間中であれば話は別です。でも譲渡が完了した動物については、その人を信頼して託した以上、病気になろうが、逃げてしまおうが、それはもう飼い主としての責任の範囲だと考えています。
「必死に探して」とは、言わない
先ほどの、譲渡した猫が逃げてしまったという報告をいただいたとき、私は「必死に探してください」といった言葉を、意図的に言わないようにしています。今回も、そのように対応させていただきました。
探すコツについては、求められれば、場合によってはお話しすることもあります。ただ今回は、動物探しに長けた方がすでに飼い主さんへアドバイスをされていたので、私はあえて技術的な助言はしませんでした。そして何より、「絶対に探しなさい」ということだけは、絶対に言わないと決めています。
数日後、猫は無事に戻ってきました。そのとき飼い主さんから、「その言葉が、逆にありがたかった」と言っていただけました。
理由は、飼い主さんの心理的な負担にあります。飼い主さんから相談を受けた方々の多くは、必死に探すためのアドバイスを、親身になってたくさんしてくださいます。その優しさは本物だと思います。ただ、それが重なると、飼い主さんは「絶対に探さなければいけない」「すべての責任が自分にある」と追い詰められてしまいます。私は、それが飼い主さんに必要以上の負担をかけてしまっているのではないかと考えているのです。
実際に私は、その飼い主さんに、こうお伝えしました。「譲渡に関わった私や預かりさんに負い目を感じているなら、それはまったく必要ありません。動物を飼っている以上、脱走の可能性はいつでもあります。明日は我が身ですから。そんなに気にせず、安心してください」と。
すると、その飼い主さんは、心の内を打ち明けてくださいました。何人もの方から「ああして、こうして」と押し寄せるように言われ、自分自身が耐えられなくなって心が折れそうだった、と。そして、「その言葉に救われました」と言っていただけたのです。
この経験から、私はこのスタンスは間違っていなかったと確信しています。
もう一つ、根本にあるのは、猫は意外と近くにいるものだということです。待っていたほうが帰ってくる、ということもある。そんな考えも、私の中にはあります。
「所有権が渡った後」に踏み込みすぎる問題
報告をする飼い主さんの心理には、大きく2つのパターンがあると感じています。
1つは、譲渡契約の書面上で報告が義務化されているケース。契約に基づくものなので、飼い主さんは律儀に報告してくれます。もはや報告するのが当たり前になっている雰囲気もあるため、保護譲渡界隈を理解している飼い主さんからすれば、契約時に義務化されていなくてもそういうものと思って報告する人も少なくないと思います。
もう1つは、報告することで何かアドバイスがもらえるのではないかと期待しているケースです。これ自体は自然な期待ですし、悪いことではありません。ただ問題は、「報告すれば手助けしてもらえるのが当たり前」という空気が生まれてしまうことです。
自主的に頼られる存在
誤解のないように言っておきたいのですが、動物の出身団体や、当院のような病院を、新しい飼い主さんが自然と頼ってくださること自体は、とてもありがたいことだと思っています。むしろ、そうなるのが自然な姿だとも思っています。
例えば病気のことで「実はこんな症状が出ていて」とご相談をいただき、「それなら一度見せてください」とお応えして診察させてもらう。これは本当にありがたいことです。
ただ、大切なのは、それが新しい飼い主さんご自身の自主的な気持ちから連絡をくださっているという点です。
分かりやすい例として、ブリーダーさんのケースを思い浮かべてみてください。あるブリーダーさんから犬を迎えた飼い主さん同士、例えば兄弟犬を迎えた家族同士が、まるで親戚づきあいのように仲良くなっていくことがあります。きっかけは犬舎が、「よかったら、この子たちの出身の子が集まる機会があるので来ませんか」と声をかけるなどがあります。すると、「ぜひぜひ」と自然に集まりが生まれ、飼い主さん同士のつながりができていく。そこで悩みを相談し合ったり、情報交換をしたりするコミュニティができあがっていく。これは本当に素敵なことだと思います。
きっかけをつくるのはブリーダーさんかもしれませんが、そこから先に広がっていくのは、飼い主さんたちの自主的な行動によるものです。
保護譲渡の世界でも、これと同じような現象は起こり得ると思っています。そして、繰り返しになりますが、これはあくまで飼い主さんの意思によって自然とそうなるものであって、口に出しはしないものの「義務化されているから報告しました」「決まりだから連絡しました」というものとは、根本的に違うものだと思うのです。
義務としてではなく、自然と頼ってもらえる出身組織でありたい。それが、私の理想です。
報告の先に潜む「無料相談」への期待
当院は動物病院でもあるので、この点は特に敏感になります。譲渡直後の相談であれば当然診させていただきますが、1年後に「こういう病気になったのですが」と相談されても、メールや電話だけで診療行為をするわけにはいきません。
これは技術的な限界の問題でもありますし、実際に診ていない動物について無責任なことは言えないという事情もあります。そして何より、そうした相談が無料で受けられると思われても困るというのが正直なところです。
報告そのものが悪いわけではありません。でも、それが常識になり、行きすぎて「アドバイスがもらえて当然」という空気になってしまうこと。ここに、私はモヤモヤを感じているのだと思います。
緩さと厳しさ、どちらにもグラデーションがあっていい
最初にお伝えした通り、譲渡条件の厳しさそのものにグラデーションがあることは、私はとても良いことだと思っています。厳しくても、緩くても、それぞれの団体がやっていることです。
ただし、どんなに緩くてもいい、というわけでは決してありません。避妊・去勢手術をきちんと行うこと、法令を遵守すること、常識的なルールを守ること。これらは最低限、譲渡の条件として設けるべきだと思います。
その上で申し上げたいのは、所有権が渡った後まで過剰に介入することには、私は反対だという立場です。ペットショップより保護犬・保護猫を、と声高に主張したいわけではありません。ただ、新しい飼い主を待っている保護犬・保護猫の譲渡をもっと推進したいと思っている立場として、「飼い主になった後も何かあるたびに報告しなければならないのか」というプレッシャーは、譲渡そのものの足かせになっているように感じてなりません。
繰り返しになりますが、私のようなスタイルの人間がいてもいいですし、とにかくたくさんのアドバイスをしてあげる方がいてもいい。いろいろな方がいるべきだと思っています。私のやり方を理解できない方がいらっしゃることも、十分に承知しています。ただ、こうしたグラデーション、いろいろな考えの方がいなければ、正解は一つではないということを、私たちは忘れてしまうのではないでしょうか。
今回お話ししたのは、正解のない、あくまで私個人の感覚です。同じように感じている方もいれば、「いや、報告は必要でしょう」と思う方もいらっしゃると思います。もしこのテーマについて考えていることや、現場で感じているモヤモヤがあれば、ぜひコメントで聞かせてください。






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