【ケース紹介】猫から人支援という逆パターン

前回、福祉現場に動物がいることで困ってしまうよくあるパターンを解説しました。ペットのために!という原動力を奮い立たせることで福祉支援も進めやすいというケースです。

今回は逆にペットの相談を受けて、そこから相談者の支援につなげられたケースを紹介します。

ペットを想う気持ちをきっかけにする点は共通しますが、福祉の現場のケースではありません。ゆえに福祉支援者側にベネフィットがあるわけではありません。

いうならば、獣医師の社会貢献新境地といえるケースになったと自負しています。

福祉職や動物愛護に関心のある読者の興味のそそる内容ではないかもしれませんが、獣医師としてのちょっとした誇りにお付き合いください。

ハイリスク保護

「外にいる野良猫複数匹が気になるので保護したい」

というよくある相談でした。

相談者自身はすでに完全室内飼育で猫を1匹飼っているため、保護時に感染症予防や去勢手術を検討していました。

このブログを読んでくださっている方は理解していると思いますが、当院は単に依頼された手術をするだけのクリニックではありません。

ワクチンや検査、手術などの初期医療について説明するだけでなく、図々しいのを承知の上、相談してきた経緯、猫の現状、相談者の背景や目的が何か、目的が達成できるか、達成にはどこまで当院が手を差し伸べるべきかなど、総合的に聞き取り調査します。

今回の相談者は40代ですが、数年就労せずに引きこもっている状態でした。

人と会うのが怖く、別居の両親から定期的に生活支援物資を送ってもらって生活しているとのこと。(保護の際私と面会したのですが、人と対面するのが3年ぶりというほど。)

保護するための初期医療費は友人に借りることができるとのことでした。

この状況を伺い1度は断りました。相談者は到底猫数匹を保護できる状況ではありません。

かなりハイリスクな動物保護です。

しかし、お金を貸してくれるという友人ご本人からも直接当院に何度か電話で初期医療を協力してあげてくれないかと申し出がありましたので、条件付きで承ることにしました。

猫から人へ

猫の保護の協力をするために私が設けた条件は

  • 猫の体調不良の際、速やかに動物病院を受診すること
  • 適正な管理をすること
  • 以上のことが守られていない場合、当院が躊躇なく動物愛護法違反で通報すること
  • 飼い主自身が就労支援を受け、就職すること(当院が就労支援団体につなげることを許可すること)

最初に協力を断った最大の理由は、最初だけ調子よく「ちゃんとやります」というけど、結局お金や気力が続かずに多頭飼育崩壊になったり、ネグレクト状態に陥ることが想像できたからです。そういう人を多くみて来たからです。

なので、その場合は躊躇なく通報する旨、少々脅しのようになってしまいましたが、忠告しました。

また、適正飼養のために、絶対に飼い主の金銭的余裕と社会復帰が必要です。

金銭的支援があっても引きこもっていては動物病院を受診できませんし、支援がいつ途切れてもおかしくないからです。

就労については、就労支援団体に飼い主の情報を提供することを許可していただき、支援者につなげました。

結果

結論からいうとうまくいきました。

本人は人との面会も可能になり、外出もできるようになり、仕事につけました。

最初の相談からここまで数か月かかりましたが、本人にとっても、猫にとっても最高の結果になったと考えています。

ペットを利用するというと言葉が悪いかもしれませんが、ペットはそれだけ偉大な存在になり得ます。そのアシストを獣医師や動物愛護推進員ならできる。そう自信をつけさせてくれたケースでした。

どんなケースもここまでうまくいくとは思っていません。そのケースにあった支援を心がけています。

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