野良猫含むペットがいることで、頭を悩ませている社会福祉的支援者は数多くいると思います。
ところが、悩みの種となりがちなペットを、支援に入るため、または進めるために逆に利用することができます。
信頼関係構築
まずはどのケースでも共通して発生する、抽象的な総論的なベネフィットについて触れておきます。
ペットの話題で盛り上がれば信頼関係が構築しやすいということです。
「別に可愛がってない」「うちの猫じゃない」などと本人が口では言っても、なんだかんだその動物を気にかけていますし、寂しい気持ちを埋めてくれているから、世話をしています。
そのため、あなたがペットの話を聞いてくれる人とわかれば、心を開いてくれます。
ペットがここに来た経緯や思い出などを話してもらい傾聴するだけで、急に距離が縮めることができたりします。
中には、自分の管理が行き届いていないことを自覚しているがゆえに、ペットのことには触れて欲しくないと考えている方も少なくありません。
それは、「もっとちゃんと飼わないとダメ」と言われるのを恐れているからです。
なので、一切アドバイス(指導は論外)することなく、とにかく傾聴して共感することから始めると、本人は安心して話してくれるようになります。
これは、すでに関わっている福祉支援者でも技術的には可能です。むしろ福祉職の方は得意だと思います。
しかし、現実的にはペットの話をゆっくりする時間が取れなかったりするかもしれません。
そこで、活躍するのが獣医師や動物愛護推進員などの動物の専門家です。
『獣医師=動物のお医者さん=動物の味方=私の味方』というイメージを持ってくれるため、獣医師である山形が訪問すると、ドアを開けてくれたり、話す時間を多く取ってくれたり、そのままご自身の重要事項()まで教えてくれたりします。
何年も関わって来た担当ケアマネさんですら知らない思わぬ情報を引き出せることも。
ペットを利用するというのは、物理的な話ではなく、このようにきっかけづくりとしてペットの話題は使えます、ということです。
もっと言うならば、きっかけづくりに獣医師がエサとなります、ということです。
脱・孤立
それではここからは各論になります。
ペットを利用してどのようなことができるかの具体例を挙げます。まずは、脱・孤立です。
これは、先ほどの総論で解説したベネフィットの実例バージョンといったところです。支援者が行政職員であった場合、このベネフィットが顕著に表れます。
行政職員が支援のために訪問、面会しようとしても、要支援者が面倒くさがることはありませんか?というのも、行政職員に「あれどうなってる?」と色々聞かれて自分のことを探られているように感じたり、後ろめたい気持ちになったり、「この書類用意しておいて」だの「この手続きするから」とか、宿題を課してくるように感じられることも少なくありません。
結果的に支援者との接触が億劫になり、行政職員はアポが取りにくかったり、アポをすっぽかされたりし、全然会えずに、職員自身も悩みの種になったりしています。
孤立したままでは社会とのつながりが持てずに、さらに悪循環に陥ります。
子育て世帯であれば、子供の安全や成長が外部から確認できないまま時が経ち、痛ましい事件につながりかねません。
そのような支援先に、「動物病院の先生を連れて来るよ」と言って獣医師が同行訪問すると、玄関のドアを開けてくれたりします。
孤立状態の家庭ではペットを飼っていても、ペットのことを話したり悩みを相談できる人はいません。自分がちゃんと管理できていないことを多少なりとも理解しているため、ペット飼育を公にしにくい気持ちもあると思います。これが孤立に拍車をかけています。
ところが、来た獣医師が自分のペット飼育を否定せずに受け入れ、専門的な立場からアドバイスをしてくれる人だとわかると、心を開いてくれます。
やまがたには行政職員や支援者が同行する決まりにすることで、アポは取りやすく、面会もしやすく、支援もしやすい関係性が保つことができるようになります。
本人からすると、動物の話題がメインで、ついでに自分の支援者も来るという感覚であっても構わないと思います。
つながり続けることの重要性は、社会福祉支援者は痛感していると思いますので、説明不要ですよね。
ペットと獣医師との関わりで孤独感を払拭した後、適正飼養のための獣医師のアドバイスを聞く耳を持つ未来があります。
できることからコツコツとペットの適正な管理を実施していけば、生活環境改善につながります。
終活に取り組む
身辺整理をしたり、エンディングノートを書いて人生を終える準備をするいわゆる「終活」という言葉は、だいぶ世間に認知されました。
終活をできずに本人が亡くなった場合、身内・親戚、支援者が困ってしまいます。終活は要支援者でなくても重要ですが、要支援者ではより重要になります。
一方、要支援者であると終活はとてもハードルが高く、ほぼできていないのではないでしょうか。
そこで、「残されるかもしれないペットのために」という目的を設定することで、終活を進めるきっかけになります。
ペット緊急連絡カード
近年、飼い主が何かあったときはこのカードを見て!というペット緊急連絡カードが広まってきています。動物愛護団体や行政がカードを作成して、財布に入れおいたり、冷蔵庫に貼っておくように声をかけたりしています。
飼い主になにかあった際、置き去りになったペットが困らないようにするという目的でこのカードは作成されます。(行政や動物愛護団体でカードを作成しているケースが増えています)
ペット緊急連絡カードに記載する項目は
- ペットの種類
- 名前
- 生年月日
- 性別
- 持病
- かかりつけ動物病院
- 緊急連絡先
が一般的です。
私が参加させていてだいている「こうが人福祉動物福祉協働会議」でもペット緊急連絡カードを作成しました、作成したカードには、先述したペットに関する情報に加え、『エンディングノートの保管場所』という欄を設けました。
ペットのためにペット緊急連絡カードを用意した際、自分のエンディングノートも用意しなければならないという意識を持ちます。エンディングノートを書く大きなきっかけになります。
また、ペット緊急連絡カードに記載のとおり対応してもらう場合、とりあえず必要な費用はどれくらいか?まで考えなければなりません。必要な費用がわかればその費用を用意するための準備をします。
一見捻出できるお金がない人でも、実は解約すべき保険があったり、各種年金受給が可能だったりすることはあります。このような手続きは億劫なので、支援者がいくら進めても進まないことも多いですが、ペットのためであれば、頑張れたりします。
これも立派な終活です。
保険や年金などの費用捻出源がなくても、ペットにかけているお金から捻出できることもあります。野良猫にエサを与えている方であれば、エサのやり方ひとつ変えるだけで、猫のエサ代が半額になったりします。
余談ですが、適正なエサやりは生活環境改善にも貢献し、一石二鳥です。
このあたりはまさに当院が得意とする部分ですから、福祉現場の動物問題は早めに相談してください、ということになります。
まとめ
ペットを利用するというのは、ペットに負担をかけることはありません。ペットに飼い主の支援を推してもらうというのがいいでしょうか。
また、獣医師やまがたはエサに使えるということです。ドアを開けさせるためのエサです。
エサである獣医師に食いついたところで、本来の目的である支援を進める。
当院はそんな使い方をしていただくことで、支援者の力添えができます。
ペットがいると頭を抱えているばかりの時代はもう終わりです。ペットがいたらラッキー!関係者が増えるくらいに捉えられる日が必ずきます。
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