人を連れもどしに出かけた者が、そのまま帰って来なくなる。転じて、相手を説得するはずが、逆に相手に説得されてしまう。
広辞苑
動物保護界隈で、ミイラ取りがミイラになることは少なくない事例です。
今回は、保護犬、保護猫に関するミイラ取りがミイラになる案件を解説します。
ミイラ取りがミイラになる『ミイラ案件』とは
結論から言うと
動物の保護活動により自分のキャパシティを超える多頭飼育になった結果、動物を保護される側になる事象
です。
保護している動物の数が増えてきたとき、急に保護主が体調を崩して入院したり、最悪死亡なんてことが起こります。残された動物はあっという間に保護される側になってしまいます。
もっと簡単にいえば、保護活動家の多頭飼育崩壊です。
これをミイラ案件と呼んでいます。
なぜミイラ案件は後を絶たないのか
保護活動にハマる
目の前でかわいそうな動物がいると放っておけない。そんな気持ちから保護活動に尽力する方がほとんどかと思います。
勿論これはいうまでもなく、称賛に値する活動です。みなさん最初は単純に優しい心で1,2匹から始まります。
動物を救ったという何事にも代えがたい達成感があり、他人に感謝され承認欲求も満たされます。
さらに、SNSで発信すれば
「救ってくれてありがとう!」
「あなたがいなければ、この子はどうなっていたの…」
「こういう人がいるならまだまだ捨てたものじゃない」
などと応援メッセージが集まります。
こうして保護活動にハマります。
更なる期待で追い打ち
積極的に保護活動をしていることが周辺地域に知れ渡ると、「あの人にいえばなんとかしてくれる」という噂が広まります。
ここまで来ると、もう断れない。
期待に応えなければならないから。私が断ったらその犬や猫がどうなるのか心配で仕方がないから。断ったら私の存在意義がわからなくなるから。
でも活動を続けることで、Amazonの欲しいものリストを設定していれば見ず知らずの人から送られてくるし、寄付先の口座を公開していれば現金だって集まります。
こうなると、寄付が自分への評価になるうえに、寄付があるなら続けられると勘違いし、使命感が芽生えてしまいます。
ミイラ予備軍
私がやる、他の人ではできない等という思いから、誰にも頼ることができなくなるといよいよミイラ化が見えてきます。
保護依頼を断れなくなり、ヘルプの声をあげると、なにか負けたような気持ちになっているのです。
一応書いておくと、ヘルプの声とは、寄付ください!の声ではないですからね。ミイラ予備軍はむしろ寄付を募る声は大きく、自分の保護動物を減らすための声はほぼありません。
ここまで来ると、いつミイラになってもおかしくない状況といえます。
実はこの段階の人は多いです。
あなたが頼ったことある人やSNSなどで応援コメントを送ったことがある人も、もしかしたらミイラ予備軍かもしれません。
個人の限界とは
個人で管理できる能力はそれぞれ。
確かにそうなのですが、一般的に一人で管理できる数は法令により数値が出ています。詳しくはこちらから。
「あの人は動物の扱いに慣れているからそれ以上の数がいても大丈夫なんだ。」
ということはほぼあり得ません。
むしろ動物を数多く扱ってきた人ほど、自分が扱う数を制限する傾向にあります。
更に、個体管理の知識と経験で群管理はできません。
ミイラになる人の特徴
ミイラ案件の原因と強くリンクします。まとめるとこのような傾向にあります。
- 個人またはワンマン活動
- 同時期に基準以上の多頭を抱えている
- 連絡が遅い
- 寄付に依存・収支不明瞭
個人またはワンマン活動
「もうこれ以上無理。」
「すみません助けてください。」
このような声を挙げらえないのは、完全個人の活動家が多いです。知らず知らずのうちにミイラ化という多頭飼育崩壊が近づきます。
団体で運営している場合も、代表者のワンマン経営で他の人はただの世話ボランティア、意見も反映されないような場合も、同じようにミイラ化に向かいます。
同時期に基準以上の多頭を抱えている
1匹にどれくらいのコストをかけるかはそれぞれの考え方で構わないと思いますが、法令基準以上の動物数の管理は違反になります。
法令基準が~など難しいこと言わなくとも、保護施設が汚いなと思ったら、それはもうすでにキャパオーバーです。
連絡が遅い
レスが早いのは仕事ができる人の特徴です。なんてビジネス書的な話をする気はありませんが、即時対応が必要な状況で何日も連絡がつかないのは異常です。
対応しきれていない証明にほかなりません。
なんでもかんでも無意味な相談をしてくる人が多く、そのような相談は後回しやスルーすることはありますよ?優先順位はあります。なので、連絡する側に問題があるケースもあります。
しかし「連絡するから」といっていつまでも連絡がないような保護活動家は、すでにキャパオーバーの可能性が高いです。
寄付に依存・収支不明瞭
ほとんどの保護活動は寄付でなりたつボランティア活動です。
ただ、寄付が減るとすぐにアップアップしてしまう運営はいつミイラになってもおかしくないです。
法人でない限り収支の報告は義務ではありませんが、そもそも収支が管理できていない活動はとてもハイリスク&動物の管理もずぶずぶなのではないかと疑ってしまいます。
もちろん外部から確認は取れませんが、質問されても数字が曖昧な活動は信頼できませんし、気づいた時にはすでにミイラ予備軍になっている可能性が含まれます。
批判か美談か
団体のミイラ化は頭数規模が大きく、ニュースに取り上げられるなど衝撃も大きいです。内部告発などで判明するケースもあり、世間から大いに叩かれます。
一方で個人の活動家は、
「動物に優しい方があんなに頑張ってた」
「なのに、周囲は助けなかった」
と美談にされがちです。同じ動物の不適正飼養(場合によっては虐待)をやっているのに。
確かに、親族、近隣住民、福祉関係者、動物病院などの周囲の人たちにももっと早く相談してよと思うことも多いです。実際、当院はそのような声掛けをやっています。
しかし、いきすぎた保護活動を『美談』にしてしまうと、また同じことが違う場所で起こるだけです。
ミイラ取りになるミイラを増やすだけなのです。
依頼者側の責任
保護を依頼する側も無責任だという声もあります。私も、任せたら任せっぱなしは無責任に感じることも多いです。
ミイラ化しない活動家は、必ず保護依頼主にも仕事を与えます。ここまでやってくれたら保護できますというなんかしらの条件をつけて保護を進めることが多いです。
「この日に連れて来て」、「ワクチン接種」、「人馴れ」など条件は様々です。お金の場合もあります。
こうすることで依頼主に一定の責任を負ってもらうことができます。
つまり、任せっぱなしの依頼者の責任は、保護活動家が管理できるのです。保護したら、それはもう保護主の責任です。依頼主の責任を、特に外野が、とやかく言うことではないと思います。
最後に
日々頑張っている保護活動家たちが、ミイラ化して欲しくないという気持ちからこの記事を書きました。
保護を依頼する側は藁にもすがる思いで依頼してきます。受けてあげたくなる気持ちは十分に理解できますが、一旦自分のキャパを考え、条件を定める等して保護していただきたいです。
だって自分の保護した動物を里親に出すときは厳しい条件をつけるでしょ?
その条件に引けを取らない管理を自分も継続できるか。今一度見直してはいかがでしょうか。
当院やまがた不妊去勢クリニックは、ミイラ化しそうな保護団体へ協力はしますが、協働はしません。
ここまで読んでいただいた方はこの意味がよくわかると思います。万が一保護活動に白旗をあげたいけどあげられなくなっている活動家個人や団体がありましたら、こっそりご連絡ください。
できることは手助けします。
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