多頭飼育届は意味がない

多頭飼育届とは、犬や猫を多頭飼育している人は保健所等に届け出てくださいという法令です。

都道府県や政令市、中核市が独自に持っている条例で規定されている場合があります。大体4分の1程度の自治体が多頭飼育の届け出を条例で規定しているようです。

大抵の場合、犬猫10頭以上を多頭飼育の基準にしています。

この10頭という数字は多いのかどうか?何のための届け出か?解説していきたいと思います。

音声解説はこちら

目的

多頭飼育をしている方を把握することで、多頭飼育崩壊の早期発見、予防、再発防止を目的にしています。

そして届出の存在は行政が立ち入る理由付けになります。

苦情があれば、それを理由に訪問ができます。

苦情がない場合や、苦情が入ったことを隠してほしいという苦情主の希望がある場合などは、「たくさん飼っていそうなので、訪問した。なぜなら多頭飼育なら届け出てもらう必要があるから」といって訪問することが可能になります。

10頭の理由

多くの場合は10頭以上という基準になっているといいましたが、なぜ10頭なのでしょうか。

もっと少ない頭数から届け出させるべきだという意見も、その反対の意見もあります。

条例に数値の設定をする場合、根拠が必要です。

ちなみに、多頭飼育対策ガイドラインに記載されているとおり、苦情があがってくる多頭飼育現場の半数以上が10頭未満であることが自治体へのアンケートでわかっています。

では、やはり5頭程度を基準にすべきではないのでしょうか。

制定年が2021年以前

環境省の多頭飼育ガイドラインが出たのが2021年です。

多くの多頭飼育条例はこれより前に制定されているため、このアンケート結果を根拠にできていません。

また、アンケートでは根拠にするには弱い印象もあります。

化製場等に関する法律(化製場法)

そこで、条例策定時に根拠としているのが化製場法です。

特定の動物を一定数、特定の場所で飼養する場合、化製場の許可を取る必要があります。

これは都市部を中心に、民家が多い地域等、許可を取る必要がある地域は指定されていますので、山奥では許可は不要です。これについては留意してください。

第一条  この法律で「化製場」とは、獣畜の肉、皮、骨、臓器等を原料として皮革、油脂、にかわ、肥料、飼料その他の物を製造するために設けられた施設で、化製場として都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けたものをいう。

化製場等に関する法律

化製場が許可制になっているのは、第5条に記載のあるとおり、廃棄物や排泄物が周辺環境に悪影響を及ぼさないようにするためです。

第五条 化製場又は死亡獣畜取扱場の管理者は、次に掲げる措置を講じなければならない。

 化製場又は死亡獣畜取扱場の内外は、常に清潔にし、汚物処理を十分にすること。

 こん虫の発生の防止及び駆除を十分にすること。

 臭気の処理を十分にすること。

 その他都道府県が条例で定める衛生上必要な措置。

化製場等に関する法律

そして、許可が必要な動物種と数は次のとおりです。

犬の場合10頭以上飼う場合、許可が必要になります。

第九条 都道府県の条例で定める基準に従い都道府県知事が指定する区域内において、政令で定める種類の動物を、その飼養又は収容のための施設で、当該動物の種類ごとに都道府県の条例で定める数以上に飼養し、又は収容しようとする者は、当該動物の種類ごとに、その施設の所在地の都道府県知事の許可を受けなければならない。

化製場等に関する法律

第八条 法第九条第一項の規定による動物の種類ごとの数は、次のとおりとする。

一 牛 一 頭

二 馬 一 頭

三 豚 一 頭

四 めん羊 四 頭

五 やぎ 四 頭

六 犬 十 頭

七 鶏(三十日未満のひなを除く) 百 羽

八 あひる(三十日未満のひなを除く。) 五十羽

化製場等に関する法律施行条例(秋田県)

なぜ秋田県の条例を出したかは、YouTube聴いてくれた方にはわかります…w

秋田県でなくても、全国的に犬は10頭だと思います。例外は私は把握してません。

というわけで、化製場法との整合性を取る必要があるため、多頭飼育届の基準値は10頭であることが「無難」なのです。

多頭飼育の問題は、動物福祉だけでなく、異臭や糞尿で周辺環境の汚染も含まれます。化製場法の目的も同じなので、目的が同じ法令なら合わせたほうがいいよねとなります。

昭和23年にできた古い法律との整合性を気にしなければならないとは、なかなか条例制定も面倒でしょ?

届出は活躍しない

多頭飼育を届け出てもらう最大の目的は、多頭飼育崩壊の早期発見、予防、再発防止です。

まず、10頭以上

届出数が増えては困る

10頭未満でもちゃんと管理できない人がいる一方で、10頭以上でもちゃんと飼えている人がいます。

ちゃんと飼っている人ほど、法令順守により届け出ます。出してほしい、行政が把握すべき多頭飼育ほど届出が出ないのが現実です。

要は、監視に行かなくてもいいような届出ばかり増えてしまうのです。これは行政にとって効率が悪いです。

自分たちが作った条例で届出のあった場所に行かないわけにはいかないんです。となると業務が増えてしまいます。

さぼるなという声も聞こえてきそうですが、ご存じのとおり人手不足です。無駄な業務をしぼるのは当然です。

届出は必要ではない

立ち入りが必要な現場は、届出が出ないことに加え、結局なにかしら苦情等で把握できることが多いです。

最初に記載したように、行く理由付けとして多頭飼育届の条例は役立ちますが、多頭飼育の早期発見には届出は役に立っていません。

そういう意味では、届出があってよかった、この条例が役に立ったということは稀です。

なので、多頭飼育届意味なしということです。

数字は意味を持たない

数値基準の多い少ないは更に意味はありません。5頭にしても届出がないと困るというケースは少ないし、20頭で届出が必須でなくても、行政は把握できることでしょうから。

なので、もっと頭数は少ないほうがいいという意見や議論もあまり意味を持たないと思っています。

多頭飼育届が活躍できたというケースがあまりないので。

多頭飼育届の大躍進

最後に一応触れておきたいのが多頭飼育の許可制です。

将来的に多頭飼育や多頭飼育に限らず飼育が許可制になるなら、その前段階のジャブとして多頭飼育届があることは、大きな意味を持つことになります。

いきなり許可制を設けるのはとてもハードルが高いため、届出→(登録→)許可と進化するための第一歩にはなります。

多頭飼育届の意味(2024年7月10日追記)

意味があると感じた経験をしたので、それを記事にしてあります。

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