印象に残っている事例

獣医師という仕事は色んな分野があり、それぞれの分野で忘れられない事例があると思います。

様々な分野の仲間の話を聞いていると楽しいのです。笑える話から、辛い話から、そして辛い話まで。ガクッ。

保健所、動物病院、そして当院と経験してきた私もやはり印象に残っているケースがあります。

今回は、保健所勤務での印象深いケースを紹介します。分野的に辛い話は実際多いですが、辛いからこそ覚えているっていうのもあると思います。

犬の引取り

保健所といえば皆さんイメージするのは殺処分だと思います。私が勤務していた保健所では殺処分を実施しておらず、飼いきれなくなったペットの引取り窓口でしかありませんでした。

決まった曜日、決まった時刻にトラックが来て、引き取ったペットをすぐに乗せます。そのトラックが動物愛護センターまで動物を運び、動物愛護センターに収容、そしてそこで譲渡処分または殺処分が実施されます。

そのため、トラックが来る時刻までに引取り依頼者、つまり飼い主は保健所にペットを連れてきます。

大抵は受付が終わって飼い主がペットにお別れを告げて、もしくは告げもせず帰ってからトラックが来て、職員がトラックに積み込みます。なので、動物をトラックに積み込むところに飼い主が同伴することはありません。

しかし、とある日。飼い主の来庁が時間ギリギリになってしまい、少しトラックを待たせることになりました。

連れてきた飼い主は、女子中学生とそのお母さんのふたり。

いそいそと手続きを済ませて、待っているトラックにさっと犬を積み込みました。

そして、運転手さんがトラックの荷台の扉をガラガラッガッシャン!!と閉めたその時、

元飼い主である女子中学生が泣き崩れてしまいました。

普段、引き取りを依頼してくる飼い主はなんて無責任なんだと思うことも多く、そのペットたちを可哀想に思うことはあっても、飼い主に同情することはほぼありませんでした。

しかし、その泣き崩れた中学生を見た瞬間、さすがに私もきつかったです。

引取り事由は確か引っ越しだった気がしますが、引き取り事由が本当に仕方のないことだったのか、安易な引き取り依頼だったかはわかりません。

ただそれは関係なく、とにかく親や家庭の事情に振り回されたその子と犬が可哀想で、可哀想で。

ペットの引取り業務で唯一記憶に残っています。

他の引取り案件は心を無にしてこなしていたので、ほとんど記憶にありません。

でもこれだけは忘れられないです。

その犬が愛護センターでどうなったかは追いかけていません。殺処分になっていたらまた辛いですし、譲渡処分になっていたら少し安堵を感じられるかもしれませんが、それがいいことかと自問自答した結果、処分の行方は聞かないことにした獣医師2年目の私でした。

最期に

引き取りは行政側で拒否できるようにはなったものの、拒否したら無理にペットを飼い続けることになり、そのペットと飼い主双方のQOLは下がる可能性があります。

無理な継続飼養より、引き取って行政で適切に譲渡につなげたほうが動物にとって幸せにつながるケースは増えています。

そういう意味でも引取り業務はとても難しく、とても有意義な業務であると思います。

ただ、精神的にきつい仕事でもあり、行政職員のみなさんにはご自身の健康第一で業務に向き合って欲しいと願うばかりです。

私は殺処分を実行した経験がないにも関わらずこんなに辛い経験をしたため、殺処分を実行している公務員獣医師の方には特に心身ともに健康第一でやっていただきたいと思うところです。

行政職員に敬意をこめて。

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