猫保護から譲渡までのコスト

猫の保護~譲渡にかかるコストを計算してみました。運営の仕方でかなり上下することを承知のうえでひとつの例として計算しています。

保護頭数が多いほど1頭あたりの管理コストは割安になりますので、成猫30頭の保護と仮定しました。

はじめに

「飼い主が急に入院することになってしまって」

「飼い主が死亡してしまって」

置いてけぼりになってしまったペットをどうにか引き取ってもらえませんか?

このような相談が行政を含む高齢者支援の現場から当院に来ます。全国の保護団体にも常日頃保護依頼が来ていると思います。

極端な話、福祉の従事者さんは人のことだけ対応すればいいところを、わざわざ動物たちも心配して相談をしてくれています。だからこそ、それに応えてあげたいという思いがあります。

しかし、収容キャパは限られていますし、思っている以上に金、時間、労力のコストがかかります。

そのため、最終的に保護を依頼になるケースは避けられないとしても、もっともっと前段階で相談してほしいという思いも同じくらい強くもっています。

前段階から少しずつでも対応していれば、保護から譲渡までのコストを抑えることもできるはずなのです。

飼養施設

30頭保護に必要な面積は45平米

埼玉県HPより引用

動物愛護法によって飼養施設基準が定められました。埼玉県のHPがかわいいイラストでわかりやすかったので、具体的に知りたい方は見に行ってみてください。ここでは簡単に説明します。

体長30cmの猫の場合、ケージ内で飼育するための最低の広さは図のとおり0.54平米のケージが必要です。

これに加えて世話をするスペースやエサなどを置くスペースが必要ですので、わかりやすく1頭1.5平米としました。

30頭で45平米=約29畳の部屋を当院のある茂原市で借りると、月額10万円程度かかります。ということは頭数で割ると家賃は

1頭 3,333円/月

ちなみにケージ内だけで飼養する場合と、猫カフェのようにケージから出して自由に運動できるスペースがある場合とで基準は異なります。運動スペースがある場合は、もう少し狭くても可。

ただし、猫カフェであっても保護施設であっても、特に初期はケージから出さずに馴らしながら隔離する期間が必要です。

そのため、上記イラストの広さが必要となることがほとんどです。

そして、見てわかるように縦には積めません。

経費

1頭 7,900円/月

具体的には下記各経費のとおりです。すべて足すと7,900円でした。


光熱費

1頭 500円/月

夏、冬のエアコンは欠かせません。電気代だけで月1万円になります。水道、ガス代合わせて5,000円として、光熱費15,000円。

餌代

1頭 3,000円/月

猫1頭給餌量1日60g、1袋2kgのエサの場合、おおよそ1袋で1ヶ月分になります。1袋の値段がこのくらいです。

人件費

1頭 4,400円/月

埼玉県HPより引用

30頭でシュミレーションしているのには理由があります。

動物愛護法で1人あたりの飼養管理頭数が30頭に制限されます。(2023年1月現在経過措置期間中)

時給1,100円で、1日4時間世話をお願いしても月132,000円。30で割ると4,400円です。

人件費は頭数が少ないほど割高になるコストでもあります。2頭保護するのに、8,800円で世話を依頼できるか?そんなはずありませんよね。

ちなみに、1日4時間で30頭の最低限の世話はできたとしても猫は全然人馴れしません。猫を譲渡するために人馴れさせる場合、多くの時間を人と一緒に過ごす必要があります。つまり、これに加えて馴らすための労力が必要になります。

譲渡までの期間

平均6ヶ月

猫の性格や健康状態に大きく依存するので一概には言えませんが、とある団体では、

引き取り・保護⇨隔離検疫⇨人に馴らし⇨募集をかけ⇨トライアルをして⇨たまに戻ってきたりしながら⇨最終的に里親決定まで半年です。

初期ケアが済み次第すぐ決まる子もいれば1年以上縁がない子もいます。

初期ケア

一般的に3~5万円程度。当院でも2万円以上

  • 不妊去勢手術
  • ウイルス検査
  • ワクチン接種
  • 検便
  • ノミ・ダニ、虫下し
  • マイクロチップ

健康な猫でも最低限これらが必要です。

その他、健康上問題がありそうなら血液検査やレントゲン等検査が必要ですし、病気に応じた治療費も加算されます。

結論:8~10万円

当記事で触れた管理経費、家賃、医療費、人件費など、成猫1頭を保護して譲渡するまでの値段がこれです。

最低金額で出した値段です。この他にかかるコストはたくさんあります。

  • 保護する際の交通費や備品
  • 感染症を持つ猫の隔離室や保護期間の長期化
  • 世話する人の代理
  • 日々の治療費
  • 周知のためのSNS、ホームページ運用
  • 譲渡会開催  などなど

最初にも言及しましたが、方法によってはもう少し安くできるかもしれませんし、保護頭数によってはもっと割高になることもあります。しかし、数万円でできることでないのは明白です。

最後に

保護する団体が寄付を受けているいないに関わらず、かかるコストは変わりありません。

寄付ですべてを賄えている団体はほぼありませんし、いつ経営が崩れてもおかしくない保護団体も多いです。それが悪いとかではなく、現状です。実際に寄付に依存した団体が経営難や多頭飼育崩壊を引き起こしています。

そのような悲劇を繰り返さないために、動物の保護譲渡にはどれくらいのコストがかかっているかを改めて見直して欲しいと思います。

万が一、保護を依頼したい人や依頼経験がある方がこの記事を読んでいるなら、無料や低価格での保護依頼について再度考え直していただけると幸いです。

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