本当にその品種ですか? 獣医師が感じる「品種あるある」

先日、X(旧Twitter)でちょっと面白い投稿が流れてきました。

「保護した猫がラグドールでした」というコメントとともに、どう見ても黒白の普通の猫の写真が。投稿者自身もラグドールじゃないと分かって、笑い話として投稿していたもので、見た人もみんなクスッとしていたんですが、これを見ながら「あ、品種あるあるだな」と思ったので、今日はそんな話を。

結構なんとなくで決まってる

犬の品種認定には、JKC(ジャパンケネルクラブ)などが定めた細かい基準があります。体型・体重・被毛・顔立ちなど、いろいろと規定があって、本来はそれをクリアして初めて「その品種」と名乗れるはず。

でも現実には、「トイプードルの親から生まれたからトイプードル」という流れで血統書が発行されることがほとんどです。基準から外れて少し大きめに育った子でも、血統書にはトイプードルと書いてある、ということが普通に起きています。

これが特別悪いことかというと、それほど単純でもなくて、なかなか難しい話です。

訂正してくれる人が、どこにもいない

動物病院でも、飼い主さんが「トイプードルです」とおっしゃれば、「そうですね」と受け取ります。

わざわざ「それはトイプードルの基準を満たしてないですよ」なんて言わないですし、言う必要もありません。ペットショップもブリーダーさんも、里親募集の投稿主も、みんな優しいから否定しない。

その結果、

  • グレーの猫 → 「ロシアンブルー」
  • ちょっと大きめの長毛 → 「ノルウェージャンフォレストキャット」
  • 小ぶりな柴犬 → 「豆柴」

という認識が、悪気なくじわじわと広まっていきます。

私自身も経験があって、多頭飼育の現場から引き取った長毛の雑種猫を「雑種・長毛」として里親募集したら、里親さんのInstagramでは「ノルウェージャンフォレストキャット」として紹介されていました。里親さんを責める気は全くないし、見ていて微笑ましいくらいなんですが、「ノルウェージャンってこういう猫なんだ」というイメージが広まっていくのは、ちょっと複雑な気持ちにもなります。

正確な品種名より大事な話

「品種名が多少ズレてても、かわいいからいいんじゃない?」というのは、その通りで、私もそこを厳しく言うつもりはありません。

ただ、品種にこだわってブリードしている方たちが大切にしているのは、見た目だけじゃなくて健康管理でもあります。

遺伝的な病気が出やすい個体を繁殖から外したり、体格や体型が問題を起こしにくいように選別したり。その積み重ねが、健康な犬猫を生み出すことにつながっています。

日本では第一種動物取扱業の登録さえあれば、正規のブリーダーとして繁殖・販売ができます。近年は要件が厳しくなりましたが、それでも繁殖についての専門的な知識がほとんどない状態で参入できるのが実情です。

結果として、遺伝疾患のリスクを持つ個体どうしを掛け合わせたり、体格上の問題を抱えた系統が広まったりすることが現実に起きています。

さらに近年、特に問題だと感じているのが品種と品種を掛け合わせたミックス犬・ミックス猫の流行です。「小型犬×小型犬」という組み合わせが次々と生み出され、さらには「大型犬×小型犬」という、体格差を考えると繁殖自体に問題があるケースまで出てきています。かわいさや珍しさを売りに販売されていますが、これは最早ブリーディングとは呼べないレベルの話です。

これが深刻なのは、病気のリスクをまったく考慮しない繁殖が行われているケースが多いからです。

純血種であれば各品種ごとに知られている遺伝性疾患の傾向がありますが、ミックスの場合はそれぞれの品種が持つリスクが複合的に組み合わさります。さらに、どんな遺伝的問題が潜んでいるかがわからないまま掛け合わせることで、関節疾患・心疾患・眼疾患・神経疾患といった問題を抱えやすい個体が、流行という名のもとに大量に生まれ続けています。

「かわいいから」「珍しいから」という需要が、健康への配慮のない繁殖を後押しする構図になっている。これは品種名がズレている話とは次元が違う、動物の福祉に直結する問題として、しっかり問題視する必要があると思っています。

どこまで厳格に管理すべきかは難しい問題ですが、少なくとも「ちょっとかじった程度の知識で繁殖している」状況が動物たちにとってどういう結果をもたらすのか、ペットを迎える側も知っておいて損はないと思っています。

こだわっているブリーダーさんへのリスペクト

競走馬を間近で見ると感動するように、ちゃんとした基準で繁殖されたトイプードルを見ると、やっぱり「きれいだな」と思います。そのこだわりを持って続けている人たちのことを、素直にすごいと思うし、敬う気持ちになります。

笑い話の「ラグドール保護猫」みたいな話は、それはそれで面白いし、別にいいんですが、そういう誤解がSNSでひとり歩きして、「ブリーダー崩壊では?」みたいな話にまで発展してしまうことがあります。それはちょっと悲しいな、と思っています。

保護犬万歳、ブリーダー滅びろなんて言う前に、本物のブリーダーが何をやっているかを知り、そこにリスペクトを持つべきです。

品種に詳しくなる必要は全然ないし、迎えた子を「うちの子はトイプードル」と思って暮らすことは何も問題ありません。ただ、こだわって繁殖している人たちがいること、そしてそのこだわりが動物の健康を守っていること、それだけ頭の片隅に置いておいてもらえたら嬉しいです。

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