成蹊大学法学部教授の打越綾子先生による『日本の動物政策』
本書は政策そのものの解説だけでなく、その成り立ちや背景について明暗含め書かれた良書です。
政策学、行政学を専門とし、環境省社会福祉施策と連携した多頭飼育対策に関する検討会の座長を務める等、動物政策に関わる主要人物のひとりだからこそ書ける内容となっています。
動物政策について意見のある人は本書を理解してから発言してくれと思うくらい、わかりやすく的確に、広い視野で書かれています。
ペットについては第1章にまとめられており、序章と併せても90ページですので、是非ご一読を。
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https://www.nakanishiya.co.jp/book/b10081172.html
ここでは、序章と第1章で私自身が特に目に留まった文章を引用して少し解説を入れます。
結論
引用解説の前に、序章と第1章の結論的なことをお伝えします。第一章のおわりにから引用し、当院でまとめています。
- 本書の目的は動物政策を社会科学の観点から分析すること
- 犬猫の課題解決には、全国一律の仕組みを考えるだけでなく、地域ごとの多様性の徹底的な分析が必要
- 法改正や制度設計の議論だけでなく、法律の運用や協働・合意形成による実施のプロセスも含めて戦略を練る
- 短期的な成果を求めるより、長期的な方向性を十分に話し合い、関係者の信頼関係構築が求められる
- 動物愛護管理政策の中心的な役割は獣医師が担ってきたが、他の政策分野について学び知識やノウハウを吸収すべき
まさに私が普段から伝えてようとしていることがきれいに言語化されていました。普段だらだら書いていることが恥ずかしいくらいに。。。さすがです。
序章
政策学には(略)、弱点がある。それは、特定の主義主張の実現を求める人々から見れば、賛否を明らかにしない卑怯な議論に見えるという点である。例えば、法律改正の場面を考えてみる。法律の条文の有効性は、政策全体としての整合性がとれてないと大きく減じてしまう。また、特定の主張とは正反対の利害関係と価値観を持ち人々が存在することも意識しなければならない。
3
この文章が示すように、本書はある意見を一方から評価するようなことはしません。政策そのものがそういうものなので、当然といえば当然ですが。
ここを理解していないと、政策の議論をする相手として認められません。
己の主張の先に何が起こるか想像し、想像できなくても議論を通じて先を見るべきです。
人間が動物を利用して彼らの権利を侵害するのは、今すぐに辞めなければならない、そのために人間が意識改革する必要があると説くのである。
(略)
しかし、こうした発想で個人的に肉食や動物実験を拒否できても、経済社会全体では多くの人々の賛同は集められないことだろう。(中略)産業や化学の複雑さで広大な経済社会とのつながりに鑑みれば、部分的な改善は可能であっても、全体的な変革や廃止は不可能であろう。
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動物を利用すべきでないと主張する人の中には、この経済社会全体とのつながりに気付いていない人がいます。
世界に目をむけると、常軌を逸した主張をする環境保護団体は、むしろこれを十分理解しているようにも思えます。
特に上層部は、本気で動物利用のない世界を目指しているのではなく、アピールにより得られる対価等、他の目的があるのではないかとすら感じます。
日本では、そこまで悪意のある戦略的な大きな活動団体はないはずです。
しかし、本気で政策を変えようと思っているのであれば、この政策学の特徴を学び、アプローチの仕方を変えるべきでないかと感じることが少なくありません。
これについては別の機会に記事にしますが、結論だけお伝えすると、「日本の愛玩動物の政策を変えたいなら、ペット飼養者数を増やすことが最優先」だと思っています。
今すぐ動物を救いたいがために、動物飼育のハードルをあげまくっても逆効果です。社会全体をみないと変わらないよ。
第1章 愛玩動物
この章から具体的な動物政策のあれこれについて解説しています。
2005年の法改正は動物の取扱そのものをどうするかの議論が中心で、関係者のできることやその限界の議論が不十分。
2012年改正は、現実的で有効な対策を考慮する方針。
2005年の議論は今となれば全然だめだったというわけではありませんが、数年で大幅に議論対象が広がっていくのが動物政策の特徴です。
次はなんだと思いますか?
多機関連携ですよ。
愛護団体から見れば厳しい週齢規制は悪質なブリーダーを駆逐する契機と位置づけられるようになった。
タレントや政治家などの影響力のある人々の政策論議への参入と、SNSによる一般の動物愛好家の情報拡散の動きは、動物愛護の推進にとっては強力な援軍になった一方で、その勢いが強すぎて、実務とのすりあわせや地道な(時間のかかる)取り組みが評価されないという弊害も発生するようになっていく。
勢い強すぎとはっきりと…w
数値基準などの明確なものがなければ判断できないというのである。実際には、業者に対する行政処分を行うだけの準備と覚悟、それを支える頻繁な監視指導に必要な人員が不足していることも、業者規制の甘さの原因であったと考えられるが、法制度の不備を理由とする弁明が主張されがちであったと思われる。
これも普段から言っていますが、行政は処分に慎重になりすぎています。元保健所職員として理解はできますが、今ある法令で動けるのに、いつまでた経っても口頭指導から一向に進みません。
文書指導、勧告、命令に進まないのは、それを行う準備と覚悟がないからと明記しており、私の主張は間違っていなかったと安堵させられました。
行政指導の在り方は、政策分野で大きく異なります。動物保護管理分野は甘いと言わざるを得ません。
同時に、人手不足も大きな原因であることは間違いありません。規制強めても、処分できなければ意味のない規制になります。それこそ、健全な人の首を絞めるだけの規制に。
しかし、一部の無責任な飼い主、不心得の業者、残忍な虐待者を排除せるために、一般の善良な飼い主や誠実な業者等に一律の規制の網をかけていくことが効率的であるかどうかは、今後更に検討を要する。
同意。一度かけた規制を緩和するのはかなり難しいでしょう。動物愛護後進国!後退!って絶対言われます。
でも規制するほど動物を愛する人たちの首をしめます。
なのでこれ以降はもっと慎重に検討すべきです。
法改正に向けた専門家による論点整理の議論は、(略)多数の個別検討会で行われており、議論の場は毎回少しずつ設定が異なる。ただし、具体的な条文については、1973年動物保護管理法の制定以来ら国会議員による超党派の立法として、国会の議員連盟や衆議院参議院の委員会等で検討されている。その際に、動物の保護や飼養環境の改善がクローズアップされてロビイングや署名活動が行われるため、動物と経済社会の複雑なつながりを熟慮していないままの主張が散見されたり、国・自治体の担当職員に対する過大な負担が求められることも多い。
ここは勉強になりました。
打越先生をはじめ、検討委員を務める専門家たちが専門性をもっていくら議論しても、専門家がいない議員連盟や委員会で検討する場がある。浅慮で耳障りのいい主張を大きな声でする人の声が届いてしまう構造にあるのですね。
そのような主張をする著名人たちに今さら改めて欲しいとは思っていませんが、彼女らを応援する一般ペット飼育者は一度熟考したほうがいいですよ。
ペット飼育者の首を絞める結果になることは、十分予想できます。
地方行政を研究する学問分野において、ローカルガバナンスという概念がある。地域の問題は行政活動のみによって解決できるとは限らない。住民、ボランティ団体、民間企業その他の関係者が相互に協働しあってこそ、地域の問題は解決できるという考え方である。
動物愛護というより、まさに私が取り組んでいる福祉分野との協働についてぴったりと当てはまるのがローカルガバナンスです。
行政だけでは無理です。多機関連携は必須であり、これについても本書では多く言及してくれています。
結局、人と地域を助けることが動物を助けることになるのです。これからの動物政策に多機関連携、官民協働は絶対に不可欠なテーマといえます。
まとめ
それなりに引用させてもらいながら、本書の紹介をしました。
動物の政策について唯一無二の重要な視点で書かれたものです。
動物政策に物申すなら、これくらいは読んでくださいね。
行政関係の長くて似たような難しい単語(動物部会だとか審議会だとか)はよく出てきますが、そこは無視して大丈夫。
そんなような会で議論してるんだな程度でいいです。それがなにかは理解する必要ありません。
打越先生の言いたいことを拾い上げて下さい。
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