前回は犬において、保健所が収容してから処分を決定するまでの解説をしたうえで、命の期限を訴えてSNSで情報発信されているのは嘘ですという話をしました。
猫は狂犬病予防法に関係ないので、収容根拠は動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)と、その下にある各条例や通知になります。
昨日話した犬と原則は同じ経路をたどるのですが、少し挙動が異なります。
屋外飼養が浸透している猫
その異なる原因となるのが、猫の屋外飼養です。
猫は係留義務がないので、ひとりで歩いていたら愛護センターや保健所が捕獲するという世界には今のところなっていません。
猫がひとりで歩いていても保健所が捕獲することはないので、飼い主がいるかもしれない猫を収容することが少ないです。
愛護センターに犬が収容される経路としては、捕獲に加えて、引き取りと負傷動物があります。
猫は、引き取りと負傷動物だけになります。
猫の引き取りは、明らかに捨てられているとわかるような猫つまり飼い主がいない場合(法第35条第3項)と、飼い主からの依頼(同第1項)の2パターンです。
いずれにせよ、飼い主を探すための公示は必要ないことは明白です。
引き取りは繊細な業務
この引き取りが少し厄介であり、繊細な業務です。
明らかに捨てられている猫とは、子猫が段ボールに入っているみたいな状況です。
そのような誰がみても捨て猫であると言える場合は、保健所は引き取ります(3項引き取り)。放置しても死んでしまいそうですしね。
ただ、捨てられたのか…?みたいな微妙なケースも多いです。常に飼い主がいる可能性を残しつつ、引き取るかどうかを判断する必要があるのです。
どんどん引き取ってしまえばいいじゃないかという意見ももちろんあるのですが、猫に迷惑している人が殺処分というか駆除目的で保健所に持ち込むことも想定しなければなりません。
これまた明らかに駆除目的であれば断りますが、その判断が難しいケースも中にはあります。
少し話がそれてしまいますが、私が保健所勤務のときは、常に猫の苦情がある場所を把握するように努めていました。
主に苦情対応という表向きの目的により、誰が猫の管理者か、何色の猫がいるか、何匹いるか、どういう管理をしているか、そして、苦情者は誰かを把握します。
苦情対応という顔をしながら、苦情者の顔を見ること、その近隣で困っている人を覚えることにより、その後、その近隣の方からの強引な1項の引き取り依頼があっても、自信を持って断ることができます。
「以前、これはあいつの猫だっておっしゃってましたよね?他人の猫を勝手に処分はできません」と。
保健所がその地域での猫トラブルを把握していないと、猫の被害者が捕獲して勝手に保健所に持ち込み、他人の飼い猫を引き取ってしまいかねないのです。
これは猫の適正飼養、猫による加害、迷惑行為以前に所有権の問題にぶちあたり、窃盗や器物損害に該当する可能性がありますのでかなり気を使います。
以上のことから、引き取り猫は「飼い主さんいませんか?うちで預かっていますから迎えに来てください」という公示期間を原則設けません。
負傷猫
負傷猫は飼い主を探して公示をしますが、負傷度合いによっては写真を載せられる状態でなかったりします。
そのため、収容された猫が捕獲された犬のようにHPに掲載されることは比較的少ないです。
結果的に、昨日問題視したような命の期限を煽ったSNS上での拡散は、猫の情報少ないのではないでしょうか。
私自身は、そういう情報に目を止めることがなくほぼ流してしまいますので、把握をしていません。
猫のそういう煽り文句で情報の大元が愛護センターのやつ、見たことあります?あったら教えてください。本当に私が知らないだけかもしれませんので。
負傷猫として収容されている場合は、なくはないと思いますよ。それこそ飼い主現れなかったら健康な動物よりも殺処分の対象になりやすいのは事実ですから。
なので、収容期限=命の期限になる可能性は、昨日話した捕獲犬よりも高いと言えるかもしれません。
ただこれも愛護センターが公示している期間は飼い主を待っている期間であって、この段階では里親募集をしていないです。
その段階で助けて!の情報拡散は不要です。
根拠法令
当記事に関連した法令を抜粋して載せておきます。
法令のどこに書いてあるかはここで確認しやすいように載せますので、原文もしっかり確認してきてください。
第三十五条 都道府県等(都道府県及び指定都市、地方自治法第二百五十二条の二十二第一項の中核市(以下「中核市」という。)その他政令で定める市(特別区を含む。以下同じ。)をいう。以下同じ。)は、犬又は猫の引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。ただし、犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして引取りを求める相当の事由がないと認められる場合として環境省令で定める場合には、その引取りを拒否することができる。
第七条は終生飼養の義務について記載されている部分です。要は、終生飼養しようともしていない安易な所有権放棄の場合、保健所は引き取りを拒否できるよという意味です。
3 前二項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。この場合において、第一項ただし書中「犬猫等販売業者から引取りを求められた場合その他の第七条第四項の規定の趣旨に照らして」とあるのは、「周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがないと認められる場合その他の」と読み替えるものとする。
4 都道府県知事等は、第一項本文(前項において準用する場合を含む。次項、第七項及び第八項において同じ。)の規定により引取りを行つた犬又は猫について、殺処分がなくなることを目指して、所有者がいると推測されるものについてはその所有者を発見し、当該所有者に返還するよう努めるとともに、所有者がいないと推測されるもの、所有者から引取りを求められたもの又は所有者の発見ができないものについてはその飼養を希望する者を募集し、当該希望する者に譲り渡すよう努めるものとする。
第三十六条 道路、公園、広場その他の公共の場所において、疾病にかかり、若しくは負傷した犬、猫等の動物又は犬、猫等の動物の死体を発見した者は、速やかに、その所有者が判明しているときは所有者に、その所有者が判明しないときは都道府県知事等に通報するように努めなければならない。
2 都道府県等は、前項の規定による通報があつたときは、その動物又はその動物の死体を収容しなければならない。
3 前条第七項の規定は、前項の規定により動物を収容する場合に準用する。
動物の愛護及び管理に関する法律
第二十七条 知事は、法第三十五条第三項において準用する同条第一項本文の規定 による引取り若しくは法第三十六条第二項の規定による収容又は第二十二条第一項の規定による捕獲(以下「引取り等」という。)をしたときは、次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に掲げる措置を講ずるものとする。ただし、引取り等をした動物が所有者及び占有者のいないものであると知事が認める場合は、この限りでない。
一 引取り等をした動物の所有者又は占有者が知れている場合 その者に対する その動物を引き取るべき旨の通知
二 引取り等をした動物の所有者及び占有者が知れていない場合引取り等をした旨その他規則で定める事項の電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法による二日間の公示
2 知事は、所有者又は占有者が、前項第一号の通知を受け取った日から一日以内又は同項第二号の公示の期間が満了した日から一日以内にその通知又は公示に係る動物を引き取らないときは、その動物を処分することができる。ただし、やむ を得ない事由によりこの項本文の期限までにその動物を引き取ることができない 所有者又は占有者が、その旨及び相当の期間内にその動物を引き取る旨を申し出たときは、その期間が経過するまでは、その動物を処分することができない。
千葉県動物の愛護及び管理に関する法律
3 都道府県知事等は、所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められたとき は、周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがあると認められる場合又は動物の健康や安全を保持するために必要と認められる場合は、引取りを行うこと。ただし、当該事態が生ずるおそれがないと認められる場合など引取りを求める相当の事由がないと認められる場合にあっては、この限りでない。
5 都道府県知事等は、法第 35 条第1項本文又は第3項の規定により引き取った犬又は猫について、引取り 又は拾得の日時及び場所、引取り事由並びに特徴(種類、大きさ、毛色、毛の長短、性別、推定年月齢、装 着している首輪等の識別器具の種類及びそれに付されている情報等)を台帳に記入すること。この場合において、所有者が判明していないときは、所有者がいる可能性があることに十分留意して対応することとし、 都道府県知事等は、拾得場所を管轄する市町村の長に対し、当該台帳に記入した事項を通知するとともに、 狂犬病予防法(昭和 25 年法律第 247 号)第6条第8項の規定に準ずる措置を採るよう協力を求めること。 ただし、他の法令に別段の定めがある場合を除き、明らかに所有者がいないと認められる場合等にあっては、この限りでない。
犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について(環境省通知)
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