「〇月〇日に殺処分!」は嘘

SNS上では、保健所や愛護センター(以下愛護センター等)に収容されている犬猫の写真を無断転載し、

「〇月〇日に殺処分!」

「あと〇日の命!」

と謳う投稿があります。

あれは嘘です。

音声解説はこちら

関連法令

犬は狂犬病予防法に基づき、猫は動物愛護法に基づき、保健所や動物愛護センターが保護収容します。

両方平行して説明するとわかりにくいので、狂犬病予防法に基づいた犬の収容から殺処分と譲渡処分までの流れを整理します。

①狂犬病予防法に基づく収容

第六条 予防員は、第四条に規定する登録を受けず、若しくは鑑札を着けず、又は第五条に規定する予防注射を受けず、若しくは注射済票を着けていない犬があると認めたときは、これを抑留しなければならない。

狂犬病予防法

愛護センター等は、鑑札や注射済票を装着していない、または飼い主に係留されていない犬を捕獲する義務があります。

現実的には、飼い主に連れられて散歩中の犬に鑑札がついていなくても無理やり収容することはありませんので、飼い主に連れられることなくひとりで歩いている犬は捕獲するという理解で大丈夫です。

②公示

第六条  予防員は、第一項の規定により犬を抑留したときは、所有者の知れているものについてはその所有者にこれを引き取るべき旨を通知し、所有者の知れていないものについてはその犬を捕獲した場所を管轄する市町村長にその旨を通知しなければならない。

狂犬病予防法

第六条  市町村長は、前項の規定による通知を受けたときは、その旨を二日間公示しなければならない。

狂犬病予防法

捕獲収容した犬の情報は、飼い主が探していることを想定して、公示されます。

公示期間は原則2日間ですが、捕獲日、公示期間終了後の返還日、土日祝日などを累計すると、おおよそ1週間ほど収容していることが多いです。

捕獲から約1週間程度経った日を収容期限として併記しています。

③処分

収容期限が切れた際、その犬をどうするか決める処分を行います。

公示期間の意味

さて、話を戻します。

SNS上で愛護センター等がホームページ等に掲載している収容犬情報を引用(無断転載)して、「殺処分される!助けて!」と訴えているのを目にします。

収容期限をまるで命の期限かのように。

しかしこの収容犬は、元の飼い主に迎えにきてもらうのを待っている犬です

明日には飼い主が迎えに来る可能性のある犬なのです。

愛護センター等がこの時点で〇月〇日に殺処分すると決められるはずがないのです。

つまり、SNSで殺処分という強い言葉で拡散されている情報は、嘘です。

処分の定義

飼い主が公示期間(収容期間)中に現れなかった場合、どうなるのでしょうか。

法令を読むと、公示期間(収容期間)が終わると、愛護センター等は処分ができると記載されています。

第6条 9 第七項の通知を受け取つた後又は前項の公示期間満了の後一日以内に所有者がその犬を引き取らないときは、予防員は、政令の定めるところにより、これを処分することができる。

狂犬病予防法

ここで処分=殺処分と勘違いしている方が多そうですが、処分=殺処分または譲渡処分です。

一般用語としてそのまま読むと確かに期間が過ぎてしまったら殺処分だと思いますよね。

しかし、処分というのは愛護センター側がその後の扱いを決めるという意味でしかありません。

つまり、飼い主が表れなかった場合、その犬の今後を愛護センターが決めますよということです。

もちろん、殺処分になる可能性もありますが、譲渡のための準備に取り掛かることもあります。

近年は殺処分より譲渡処分のほうが多い自治体も少なくありません。

つまり「〇月〇日に殺処分!」というのは嘘になります。大事なことなので二回言いました。

譲渡までの期間

「そんなこと言っても、公示期間が終わってから一度殺処分を免れた子も、ある程度の期間里親が見つからなければ殺処分になるんでしょ?」

という声が聞こえてきそうですね。

安心してください。少なくとも千葉県では、一度譲渡すると決まった子は何年経っても里親募集中として愛護センターで飼育されます。

むしろ時間が経つほど人馴れやしつけのトレーニングを重ねて、どんどん譲渡に適した犬になりますので、大逆転で殺処分になりましたということはありません。

ただ、これに関してはもしかしたら、募集期間を設けている自治体もあるかもしれません。

にしても公示中に殺処分が決まっていることはありません。

SNSで拡散してはいけない理由

「殺処分になるという煽りが嘘なのは理解できました。でもそのうち里親募集中になるのなら、別によくない?」

という意見も聞こえてきそうですね。

確かに一理あります。早めに里親募集したほうがいい。

しかし、この時点で情報を拡散するには問題があります。

殺処分になった場合

情報を目にした心優しい方はその犬の行方が気になりますよね。

気になってしまったら動かずにはいられない方がいて、愛護センターに電話で問い合わせをします。

正直これだけでも、不要な電話対応に時間を取られます。もう一度いいます、これは不要な対応なのです。

はっきり言って、飼い主でもない、常日頃センターから犬猫を引き出している登録ボランティアでもない、ただSNSでチラ見して気になっただけの人が、その犬の処分を問い合わせるのはただの自己満足です。

つまり、愛護センターに不要な対応を強いているだけですので、おやめください。

中には過激な方もいて殺処分になったことを知ったり、犬の行方は言えないと回答されると苦情を言わずには居られない人もいます。

更に、殺処分になった(に違いない!)とSNSで拡散し、愛護センターには苦情電話の嵐が来て、通常業務が更に妨害されます。

飼い主が見つかった場合

当然ですが、飼い主のもとに帰ることがあります。

しかし、SNSの投稿を見た人が里親になる気満々になってしまう場合があります。

それでも、飼い主のもとに戻れた場合はよかったねで済めばいいのですが、やはり中には過激な人がいます。

SNSで助けて!という投稿を見たときから私が助ける気満々だったのに、譲渡してくれないとはどういうことですか?

という具合で、文句をいう人がいるのです。

愛護センターは一度も「〇日後に殺処分になるから、それまでに里親を」なんて発信をしていないにも関わらず、話が違う!と愛護センターに苦情をいいます。

あとは殺処分になった場合と同じ経過をたどります。

業務妨害は辞めて下さい。

譲渡処分でも問題に

さすがに、譲渡処分になった場合は問題ないと思いますよね。

問題あります。

千葉県では、現在原則一般人には譲渡していません。登録団体への譲渡に限定しています。

なので、愛護センターにいる犬の里親を募集することはないのです。

これは稀なケースですが、実際にそうなっているため、里親になることを楽しみにしていた方を裏切ることになります。

その後は以下同文です。

最後に

そんな過激派めったにいないでしょ~と思うかもしれません。しかし、実際にこういうケースが起きて、愛護センターが疲弊するケースがあとを絶ちません。

電話対応に時間が取られると、収容動物の世話に支障がでます。

愛護センターへの苦情は、収容動物が損をすることになります。

殺処分という言葉で命の期限を謳った投稿をみて、なにかしてあげたい気持ちを持つ優しさは持っていてほしいです。

しかし、それは本当なのか?

元情報はどこなのか?

拡散した先に本当に動物の幸せが待っているのか?

自分の拡散が愛護センターの業務妨害に加担させることにならないか?

一瞬、立ち止まって考えてください。

里親を募集していますと記載のある公開情報だけ拡散に協力してください。

それが一番大きな力になります。

よろしくお願いします。

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