ノミやマダニは犬猫だけでなく人にも寄生します。命に関わる重篤な感染症も媒介するため、犬猫における徹底的な予防が推奨されています。ここではノミ・マダニと媒介感染症そして予防について解説します。

この記事のまとめ

  • ノミ・マダニは人間に様々な感染症を媒介する
  • 中には致死的なものもある
  • 意外と身近なちょっとした草むらに潜んでいる
  • 年中予防を推奨

ノミの特徴

ノミ

ノミについては多くの方がご存じだと思います。暖かい時期になると出てくる。ぴょんぴょん跳ねる。ノミ取りくしで取れるなど…しかし、少し誤った解釈も多いため、解説します。

ノミは暖かい時期に活発になることは確かですが、最低13℃あれば発育することができます。真冬であっても日当たりのいい場所や、暖房の効いた屋内、こたつの中では発育可能です。卵が孵って幼虫となり、蛹が羽化して成虫として動物を吸血し、また卵を生むというサイクルを繰り返します。このひとサイクルは最短で2週間程度と言われています。近年では温暖化の影響や、住宅の断熱効果の向上が原因で1,2月という極寒気でもノミを付けてくる猫もいます。

犬猫の被毛を掻き分けるとノミが見つかることがありますよね。そうやって見つかるのは寄生しているノミ成虫の5%程度です。また、ノミのライフスージ別生息割合で成虫は5%程度とされています。つまり、毛をかけ分けて1匹見つかったのであれば、ノミ成虫は20匹程度寄生していると推測されます。卵、幼虫、サナギを合わせると、付近の環境には400匹いる計算になります。ノミ成虫ある程度の大きさがあるので見つけやすいと思われていますが、犬猫の被毛に潜り込む能力は我々の想像をはるかに超えています。

ノミの生息数ピラミッド

マダニの特徴

マダニ

マダニは日本全国様々な種類がいます。基本的に活発なのは春から秋の暖かい季節ですが、昨今1月や2月の真冬でもマダニをつけてくる犬猫がいます。特に野生動物が近くにいる環境ではマダニの生息密度が高い傾向にあります。ちょっとした道路の脇の草むらなどでも十分にいます。

マダニのライフサイクルはノミと違い、年単位です。ノミは成虫だけが吸血を行いますが、マダニは幼ダニ、若ダニも吸血する点も異なります。幼ダニは肉眼で確認するのが難しいくらい小さいものです。噛まれたら、動物なら動物病院、人間なら人間の病院で取ってもらいましょう。無理に取ろうとすると、後述する感染症を注入してしまったり、マダニのくちの一部が皮膚に残ってしまったりします。

マダニを無理につかむと病原体が体内に侵入してしまう

人間のノミ・マダニ関連感染症

重症熱性血小板減少症(SFTS)

今もっとも恐れられている感染症のひとつです。マダニが媒介し、高い致死率を誇るウイルス性疾患です。「殺人ダニ」と称され、話題になりました。現在はあまりメディアでは騒がれなくなったものの、着々と感染者数を伸ばし死亡者数も増えています。主に西日本での発生ですが、2017年にはすでに千葉県にも存在していたことが判明しました。

関東地方で初めて感染が確認された重症熱性血小板減少症候群の1例【国立感染症研究所】

感染症法で4類感染症に指定されています。診断した医師は届け出なければならない重要な感染症です。初めて日本で報告されたのは2011年で、2021年7月28日までの累計報告数は641例。そのうち80例が死亡となっています。8人に1人が亡くなっています。まだまだ報告数は上昇中で致死率10~30%と言われています。いずれにせよ高い致死率を誇る危険な感染症であることは間違いないでしょう。

国立感染症研究所ホームページより引用

マダニを介して人間や動物に感染します。それだけではなく、発症した動物から人間へ、マダニを介さずに直接感染することがわかっています。いくら自分自身がマダニに噛まれないよう注意していても、犬猫を通じて感染する可能性があります。実際にペットから感染し、飼い主が死亡した報告もあがっています。

ペットからSFTSウイルスに感染し, SFTSを発症した事例報告【国立感染症研究所】

SFTS【国立感染症研究所】

日本紅斑熱

千葉県南部は国内で有数の濃厚エリアです。

感染症法で4類感染症に指定されている重要な感染症です。マダニを介して侵入するリケッチアの一種が原因です。「紅斑熱」の名のとおり、発熱と、皮膚に赤いまだら模様の紅斑が出ることが典型的な症状です。体力のない高齢者等は治療が遅れると死に至る可能性がある感染症です。抗菌薬による治療が可能です。マダニが媒介するため、温かい時期に感染することが多いです。

国立感染症研究所HPより引用

日本紅斑熱とは【国立感染症研究所】

ツツガムシ病

千葉県南部は国内で有数の濃厚エリアです。

感染症法で4類感染症に指定されている重要な感染症です。ツツガムシを介して侵入するリケッチアの一種が原因です。ツツガムシはマダニと異なり、血は吸わず皮膚を傷つけて滲出した液を吸います。オレンジ色をしており、秋~冬にかけて活発になるため、ツツガムシ病の発生もその時期と一致します。

代表的な症状は日本紅斑熱に類似しており、治療も日本紅斑熱と同様の抗菌薬にて行われます。ツツガムシの予防、駆除はノミマダニと同様の薬で可能です。

つつがむし病とは【国立感染症研究所】

猫のツツガムシ寄生写真

左上の乳首付近だけでなく、他にもいます
左上拡大画像

手術時、お腹の毛を刈って初めてよく見えます。オレンジ色のつぶつぶが全部ツツガムシです。

ライム病

人間のライム病は、感染症法で4類感染症に指定されています。ボレリアという細菌がマダニを介して侵入することで感染します。国内では北海道でマダニに刺されて発症します。

犬の場合、感染しても多くは無症状です。発症しても元気食欲低下、発熱などで、この感染症に特徴的な症状はありません。

ライム病とは【国立感染症研究所】

ノミ直接被害

人間は刺された場所に激しい痒みがおこります。個人差ありますが、蚊の数倍痒く、3日ほど痒みがおさまりません。掻いてしまうことで細菌の二次感染や水ぶくれに発展してしまうこともあります。家の中にノミが侵入してしまった場合、排除のために殺虫剤の噴霧を数回実施する必要があり、とても大掛かりで大変な作業となってしまいます。

日本皮膚科学会HPより引用

ヒトのノミ被害(日本皮膚科学会)

猫ひっかき病

その名のとおり、主に猫にひっかかれたり、咬まれることで感染します。子猫にひっかかれることで発症することが多いようです。子猫相手だと「大した傷にならないから」と油断しているからでしょうか。ノミから直接人間に感染することもあるようです。受傷して10日以内に痛みを伴ったリンパ節腫脹などが特徴的な症状です。

ノミ➡猫➡人間

ノミ➡人間

猫にはノミから移るため、やはり猫のノミ予防が重要になります。猫が感染しても体調を崩さないことが多いので、気づかぬうちに人間まで感染が成立してしまいます。

駆除・予防

写真の滴下タイプの他に経口タイプもあります

残念ながら一度で一生効くような薬はないため、定期的な薬の塗布や飲み薬が必要になります。当院で診させていただいた患者さまには、まとめて数か月分の処方も可能です。薬のつけかた・飲ませ方は丁寧に説明しますので、どなたでもできるようになります。

当院でに予防はこちら

市販の薬は効果がない?

近所のドラッグストアなどで安価で買える犬猫のノミマダニ駆除薬があります。しかしノミに困っている人から「市販の薬をつけているけど効かない」と相談されることも少なくありません。これには2つの原因が考えられます。

  • 市販の薬に耐性がついている
  • 成虫だけ駆除し、残った卵、幼虫、サナギが育っている

特定の薬剤に耐性を持つノミの存在は以前よりささやかれていますし、実験室内レベルでは存在します。しかし、身近にいるノミが耐性をもっているかの証明はなかなか難しいため、まずは適切な薬剤の投与から見直しましょう。

ネコノミの薬剤耐性レビュー

成虫だけ駆除する薬を使用した場合、幼虫や卵は生き残ります。それが育てば成虫が見られるようになり、薬が効いていないように見えます。特にノミは成長が早いため、成虫駆除薬をつけた数日後にノミ成虫を発見してしまう可能性があります。その成虫も吸血すれば死ぬと考えられますが、駆除の即効性はなく根絶までは時間を要します。更に、薬の効果が切れる頃に確実に追加投薬をしなければすぐに元通りになることでしょう。

市販の薬は効果が全くないことはありません。ただ、成虫にのみ効果のあるものも多く、用法用量を守らなければ効果は著しく落ちます。このような理由から、病院の処方薬で幼虫や卵まで効果のあるものを選択することをおすすめします

ノミ取りクシの効果

ノミ取りクシは今寄生しているノミ成虫を取り除くには効果があります。毛をかき分けて見つけることができるのは5%程度ですが、ノミ取りクシを使用すると75%程度のノミを除去できると言われています。今すぐに数を減らす目的であれば効果的です。ただし、25%程度は取り逃すことになります。ここまで読んでいただいた方は、この意味を安易に想像できるでしょう。除去しきれなかった数匹、数十匹のノミですぐさま爆発的に増えます。ノミ取りクシと併用して、やはり駆除薬を使用しましょう。

最後に

以上のように、ノミマダニは不快なだけでなく重要な感染症を媒介する動物です。野生動物と人間の距離が縮み、野生動物↔ペット↔人間と感染症が広がりやすい環境になっています。ペットのノミ・マダニ予防を徹底することは、ペットだけでなく人間の感染症予防にとても有効です。たかがノミ・マダニと侮ることなく、しっかりと予防をしましょう。案外身近に、恐ろしい感染症は潜んでいるのです。

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