猫に関わるうえで必ず知っておく必要のある代表的な病気、猫白血病と猫エイズ。これらはもちろん異なる病気です。ただ、似通った性質の部分も多く、セットで検査したり語られたりするため混同しがちです。この記事では類似点と相違点に焦点を当てて解説していきます。

まとめ

類似点

  • ウイルスが原因の感染症
  • 人間には感染しない
  • 根本的な治療法はない
  • ワクチンで予防可能
  • 感染➡潜伏感染➡再発症すると死に至る

相違点

  • ワクチンの種類
  • 感染経路
  • 検査内容と潜伏感染
  • 潜伏後の再発症

猫白血病(FeLV)とは

ウイルス(Feline Leukemia Virus)が原因の感染症です。初期症状は元気食欲の低下、発熱、貧血やリンパ節の腫脹があります。これは数週間で回復することもあります。ただし、症状は回復しても体内に潜伏感染していることも多く、これを「キャリア」と呼びます。年単位の長い潜伏期を経て再び発症し、骨髄まで影響を及ぼすと、免疫力低下により白血病やリンパ腫、思いがけない感染症、難治性口内炎、重度貧血、流産などが現れますが、治療法はないため最終的には死に至ります。人間にうつることはありません。

猫エイズ(FIV)とは

ウイルス(Feline Immunodeficiency Virus)が原因の感染症です。症状や潜伏感染する点は猫白血病に類似します。ただ、猫エイズは生涯再発症することなく寿命を全うできることも十分にありえる感染症です。猫白血病と同様、人間にうつることはありません。

感染経路

猫白血病と猫エイズの感染経路の違い

猫白血病はケンカ傷、舐め合い、トイレやお皿の共有が感染経路となります。要は、猫同士が仲良くしているたけでもうつるということです。稀に母子感染もします。

一方、猫エイズはケンカ傷及び交尾で感染します。そのため未去勢外猫オスに多く、去勢室内猫や子猫では少ないです。

検査方法

簡易検査の場合、数滴の血液を使用し、検査キットにより10分程度で結果が出ます。

写真

少し難しい話になりますが、猫白血病は抗原を、猫エイズは抗体を検査しています。猫白血病ウイルス抗原陽性が示すことは、現在感染しているということです。猫エイズの抗体陽性が示すことは、過去または現在エイズウイルスに感染した、または母親から抗体だけもらった(移行抗体)のどちらかです。つまり感染していない可能性もあるということです。

検査料金

多くの場合、4,000~6,000円です。当院での検査についてはこちら

やまがた不妊去勢クリニックの猫エイズ・白血病検査について

検査時期

原則、新しく迎える猫は、そのときに検査をしましょう。ただし注意点があります。

子猫は生後2か月以降の検査をおすすめします。極端な話、生まれたてでも検査は可能ですが、検査結果をより正確なものにするため再検査が必要になります。先住猫がいる等すぐにでも知りたい場合を除いては、ある程度子猫が育ってから検査をしましょう。最初の検査で両方とも陰性なら安心して大丈夫です。

成猫であっても、感染を疑う機会が発生してから1、2か月後に検査をしましょう。感染直後では、ウイルス量や抗体産生量が少なく、正確な結果が得られません。そのため、最終感染機会から2か月程度経過してからの検査が正確な結果を示します。

陰性でも安心できないケース:感染後間もなく、まだ検査で陽性を拾えていない

陽性から陰性へ変わる(陰転)

陽性だった個体が陰性に転じることを陰転といいます。

猫白血病陽性はウイルスが身体の中にいることを示します。しかし、自分の免疫力でウイルスを排除できることがあります。離乳期を過ぎてからの感染だと50%、1歳以上だと90%の確率でウイルスは排除されます。排除後に再度検査をすると当然陰性となります。陰転しない場合、残念ながら持続感染になったということです。

猫エイズの場合、先に示した2パターンで陰転する可能性の有無が分かれます。感染していた場合は、陰転しません。母親譲りの移行抗体を持っていた場合は、4ヶ月齢程度で移行抗体が消失するため、陰転します。移行抗体の消失時期は個体により大きく幅があり、2か月齢の場合もあるし、4か月齢でもまだの場合もあります。検査時期は遅いほど、移行抗体による陽性は出にくくなりますが、たいていの場合、6か月齢程度で再検査をします。

いずれの場合も子猫の時に陽性判定が出た場合、数か月後に再検査をお勧めします。

陽性でも諦めてはいけないケース:子猫

治療

根本的にウイルスを排除する治療法はありません。症状に併せた対処療法となります。ウイルスを抑制するインターフェロン治療を併用されることもありますが、基本は対処療法で猫の状態をあげていくことしかできません。再発症した場合、随伴する病気(リンパ腫や感染)の治療はできますが、その原因のウイルス自体は排除できず、最終的に死に至ります。

人への影響

猫白血病及び猫エイズウイルスは人には感染しません。ただ、人を介して他の猫に感染を広げる可能性はあります。そのため、多頭飼いなど、複数の猫を扱う場合は、隔離・消毒などの感染拡大防止対策を徹底しましょう。

感染対策

ワクチンによる予防

猫のワクチン一覧

猫白血病ワクチンは4種または5種混合ワクチンに含まれています。猫エイズは単体のワクチンになります。どちらも感染予防を目的としたワクチンであるため、すでに感染している場合は接種する意味がありません。検査で陰性を確認してから接種しましょう。猫エイズワクチンは以前非推奨ワクチンとされていましたが、感染リスクのある猫には推奨されるようになりました。詳しくはワクチンの記事にて。

猫のワクチンについて(記事準備中)

消毒による予防

両ウイルスともに、多くの消毒が効きます。よく使用されている/使用しやすい代表例は、アルコール、ビルコン®(ペルオキソ一硫酸水素カリウム及び塩化ナトリウム)、イソジン®(ポピドンヨード)、そして熱湯(60℃30分以上)が挙げられます。消毒対象や使いやすさを考慮して使用してください。ただし、よく使用される消毒薬の中でヒビテン®(グルコン酸クロルヘキシジン)は効果があまりないとされているため注意が必要です。そして何より手洗いは、ウイルスの物理的な除去と消毒薬の効果最大化のために最も重要です。

猫エイズ陽性猫の譲渡

猫エイズは、生涯未発症で寿命を全うできることも多く、感染経路がほぼケンカに限られます。また、ワクチンで予防できる病気でもあります。これらの理由から、先住猫がいるお宅であっても譲渡先として候補にあげることが可能です。必要以上に恐れず、病気を正しく理解することで、猫の譲渡はより捗ることでしょう。

まとめ

  • 猫白血病、猫エイズは猫の命に関わる重大な感染症である
  • 感染した場合、治療法はない
  • 子猫で検査陽性になっても、陰転する可能性がある
  • 感染予防・拡大防止にはワクチンの接種及び手指と器具類の洗浄消毒が有効
  • 新しく猫を迎える時は必ず検査する
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