獣医療広告ガイドラインに物申す

獣医療広告ガイドラインが改正され、2024年4月1日から施行されています。

https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/zyui/koukoku.html

獣医療広告は、飼育者を誇大な広告等から保護するために規制をされています。
飼育者等が提供される獣医療サービスを正しく理解し、適切に選択できるように今回見直されました。

今回は大きく変わったので、前半でポイントを解説し、後半は私の意見を少し(少し?)添えます。

改正のポイント

  1. 客観性や正確性を確保し得る場合には、獣医師の専門性や獣医療サービスなどの広告が可能
  2. ウェブサイト情報発信については、原則として広告制限の対象とはしないが、獣医療の安全対策の一環として、ガイドラインで一定の管理を行う
  3. 診療内容広告の際、①問合せ先、②通常必要とされる診療内容、③診療に係る主なリスク、副作用等、④費用 の4点を併記すること

1は、勝手に専門医とか名乗るなということです。例えば当院なら、去勢手術専門医とか言うとアウトかもしれません。しっかり認定された団体から得られる専門性や認定を受けた人であればそれを広告していいし、そうでなければ勝手なこと言うなということです。

2は、これまでホームページは広告に当たらないという認識でしたが、ホームページもある程度ちゃんとしようねということです。

ただ、ホームページは調べたい人が自ら進んで情報を取りに行った結果目に入るものなので、広告とは言えないという大原則に変わりありません。バナー広告とかは完全に広告ですけどね。

広告の範疇ではない

今回私が論点にしたいのは、3です。これによりかなり広告しにくくなってしまいました。

広告がしにくいというのは、結果的に業界には悪影響だと私は思います。業界って、なにも普通の動物病院だけではないですからね。普通の動物病院にはそんな影響ないかもしれせんが(だから規制が進む)、当院のようなスぺイクリニックは、公衆衛生に寄与していると自負していますが、これにブレーキをかけられたような印象です。

改めて3についてガイドライン本文を引用します。

(5) 高度獣医療を含む診療内容に関すること(省令第 24 条第1項第3号関係)

当該事項を広告するに当たっては、省令第 24 条第2項第1号により、優良誤認表示や誇大広告にならないように十分に注意を払うとともに、「問合せ先」、「通常必要とされる診療の内容」、「診療に係る主なリスク、副作用等の事項」及び「費用」を全て併記して、飼育者等が必要な獣医療サービスを正しく理解し、適切に選択するために必要な情報を提供しなければならない。

獣医療広告ガイドライン

診療内容に関することとは、避妊手術、寄生虫駆除薬の処方、ワクチン接種、健康診断、マイクロチップ装着が該当します。

実際の広告例がガイドラインに示されていますが、みてわかるとおり書かなけらばならないことが多すぎます。

この例なら①問合せ先、②通常必要とされる診療内容、③診療に係る主なリスク、副作用等、④費用 の4点が併記されています。が、みてのとおりごちゃごちゃしすぎです。

私が疑問に思ったのは、①、②、③です。特に②、③。

①問合せ先なので、広告には必ず記載するものですが、例えば夜間は問合せ先が異なる場合など、それも併記しなければなりません。

②不妊去勢手術の場合、手術によって生殖能力が失われること、卵巣を摘出すること、精巣を摘出すること、事前検査、入院、抜糸が該当します。

③麻酔によるリスクと感染症発生のリスクの説明があります。

④の費用については、改正前、低価格競争やそれによる獣医療の質低下を防止するため、費用は記載してはならないこととなっていました。しかし、飼い主が最も知りたい情報のひとつということでしょう、むしろしっかり併記することとなりました。

広告とは、誘因性を持って(誘因を目的に)広く告知するためのものです。それ以上でも以下でもありません。

併記しなければならない4点により、広告の役目を果たさないようなものになることを危惧しています。

そしてなにより、これら4点を併記することが本当に飼い主のためになるかが疑問です。その理由はふたつあります。

インフォームドコンセントの範疇

私が一番疑問に思う理由は、今回広告に併記せよとされた4点はインフォームドコンセントの範疇ではないのか?ということです。

広告、特に紙媒体では紙面が限られていて全てを説明することはできません。

全か無かで判断すべきではないので、すべてを説明できないなら意味がない!というつもりはありません。

ただ、広告はあくまで広く告知するためのものであり、医療の詳細を説明するものではないと考えます。

広告を見ただけで、獣医師が説明する機会すらなく、獣医療を提供することはあり得ません。

広告を見た飼い主が獣医療を希望してから、獣医療を実行するまでの間に必ず獣医師が介入します。ここで4点を説明すれば済む話です。

これがまさにインフォームドコンセントなのですから。

インファームするタイミングがあるにも関わらず広告にもそれを義務付ける必要はあるのでしょうか?

説明・注意点は読まない

誤解を恐れず言うと、多くの人はいくら注意点を文章で渡しても、ホームページに細かく記載していても、勿論広告に掲載しても、読みません。読めません。

ましてこんな色々なことが書かれた広告は読む気にもならない人は少なくありません。誘因を目的とするものに、誘因性を失うような規制をかけることになっています。

何度も何度も丁寧にインフォームしなければならないのです。

だからこそ何年も前からインフォームドコンセントの重要性が叫ばれてきたのです。

そしてインフォームドコンセントは定着してきています。

にも関わらず広告にも併記すべしというのは、時代に逆行してませんか?

寄生虫駆除薬でいえば、ネットでポチっとしたら買えるECサイトじゃないのですから(そっちは広告云々以前に規制があるのだから)、広告に併記しなくても処方時に必ず獣医師が説明します。

広告に併記すれば買えるわけじゃないでしょう?

そこまで広告併記を義務付けるなら、買えるようにしたらいいじゃないですか。でもそれは違いますよね?

その動物を診て、駆虫薬使っても大丈夫か獣医師が判断して処方するんですよね?

処方するときに、万が一こういう症状が出てしまったらすぐにここに電話してと説明しますよね。

そこまでやらなければならない決まりがあるのに、広告まで規制かけたら二重規制と言えませんか?

規制による業界全体の困惑

改正の背景には、モンスター飼い主によるトラブルがあると思います。

カスハラとも言えるような一部の過激な飼い主によって獣医師側が訴えられるようなケースに考慮した結果かもしれません。

また、インフォーム不足の獣医師が原因のトラブルもあるでしょう。

そのようなことがないように、広告にここまで書いてあるだろ!と裁判で負けないために4点まで併記しようと決めたのではないでしょうか。

一部の不届き者(カスハラ客とインフォーム不足獣医師)のせいで、獣医療全体に規制がかかりました。

まさに規制強化によって正常者が迷惑被るパターンのやつですね。

獣医師を守るという意図も感じ、その点はもちろんありがたいですけどね。

当院の困惑

当院のようなスペイクリニックは公衆衛生と動物福祉向上に貢献すると自負しています。

そのため、様々な理由からネコを増やしてしまうような人へ広告を届けなければならないと考えています。

対象者に広告が届き、不妊化してくれることで公衆衛生と動物福祉向上に貢献できます。

当院は、市町村の広報紙に広告を掲載するのが一番必要な人に届く安価な手段だと考えています。

なぜなら、猫に餌をやって増やしてしまう層はネット広告は見ない、あまり出かけないので街なかの広告も見ないからです。

個別宅へのDMも効果があるかもしれませんが、費用がかさみます。

広告費が高額になってしまうのが嫌なだけじゃない?と言われそうですね。

広告予算がかさむと手術費用に響くので、安価な手術によって多くの動物の不妊化を進め、飼育環境から公衆衛生の向上という本来の目的に貢献できなくなり、本末転倒です。

市町村の広報誌に掲載する広告は、枠が限られています。一枠4×8cm程度。

そこに4点を併記することを厳しく追及されると、かなり難しいです。

結果、本当に必要としている人へ広告が届かないことになりかねません。

なんとか新し広告を作成しなおして、家畜保健衛生所からOKいただきましたが。

家畜保健衛生所の職員には、丁寧にご指導いただきありがたかったです。

ただ、このように公衆衛生に寄与している獣医師がやりにくくなっている現実は知っておいて欲しいですね。

ならパブコメに書けよって突っ込みは、ごもっともですので今さらご勘弁を(笑)

関連記事

  1. 東京都は殺処分ゼロ 正しい認識と課題

  2. 保健所の印象が悪いと発生する不利益

  3. 多頭飼育はどのような問題か~ガイドライン解説①~

  4. 時代に逆行⁉千葉県犬猫譲渡要領改訂

  5. 保護動物の販売は悪か?

  6. ペット業界の自浄作用がなくなる

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP